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「名言との対話」8月31日。江橋節郎「行き当たりばったり、偶然にまかせて、その時自分が面白いと思うものに身をまかせていく」。
江橋 節郎(えばし せつろう、1922年8月31日 - 2006年7月17日)は、日本の薬理学、分子生物学者。
東京生まれ。東京帝国大学医学部卒業後、東大助手を経て、1959年より36歳で教授に就任。その間米国ロックフェラー研究所客員研究員(F・リップマン教授に師事)、カリフォルニア大学、ハーバード大学の客員教授を務める。1983年退官。岡崎国立共同研究機構生理学研究所教授となり、生理学研究所所長、機構長を歴任。
この間、国際生物物理学連合会会長、国際薬理学連合会会長を務める。ロンドン王立協会ほかいくつかの外国学士院会員。1972年日本学士院賞、恩賜賞。1975年文化勲章、文化功労者。1978年日本学士院会員。
公益社団法人日本薬理学会は、生命科学への貢献を末永く顕彰するため、江橋節郎賞を創設し、独創的、飛躍的な業績をあげ、今後薬理学の発展にますます貢献することが期待される会員に授与している。
以上のような経歴をみると、順風満帆な感じがするが、苦労もあったようだ。以下、私なりに江橋の理論を追ってみたい。
筋肉は神経インパルスの電位変化を呼ぶことで収縮と弛緩を繰り返す。そのメカニズムは長く謎だった。それにカルシウムが関与しているのではないかという仮説が浮かぶ。タンパク質のトロポミオシンと江橋が発見命名したトロポニンの混合物が関与していることを実証した。このことによって神経伝達物質やホルモンの放出、代謝切り替え、遺伝子発見など数卯多くの細胞過程でカルシウムが制御していることがわかった。こうして江橋はカルシウムシグナル伝達という新領域を切り拓き、生命科学全体に大きな貢献をしたのである、また、筋ジストロフィー症などに関する薬理学、生物物理学、分子生物学などの分野においても、数々の発見やその業績をあげている。
JT生命誌研究館の機関誌「生命誌ジャーナル」には、「地球上どこにでもあるありふれた無機質のカルシウム そのカルシウムが筋肉収縮の鍵だった。江橋博士に孤立無援の中で自説を貫かせたのは何だったのだろうか―」という記事がある。その中で、 1962年には「私が筋収縮カルシウム説を主張していた頃は、世界のほとんど誰も信じようとしなかった(という話は今では誰も信じないくらい、当たり前のことになっている)」「カルシウム説が本当に認知されたのは、さらに3年後の65年、カルシウム結合能力の極めて高いたんぱく質を私が発見、トロポニンと名づけてからである」という苦労話が掲載されている。
また、東大で同僚であった遠藤實 は、追悼文で「研究室での彼の働きぶりは猛烈をきわめ、ほぼ連日、夜中の 12 時すぎまで研究を続けた」「江橋は魅力的な人物であった。カリスマ性があり、同僚たちに対して思いやりがあり、助力を惜しまず、信に厚く、また母国を愛する心が強かった」と書いている。
ノーベル賞級の世界的科学者たちの伝記や自伝を読む機会が増えているが、興味に任せて「いきあたりばったり」で研究にのめり込んでいる過程で、偶然にヒントに出会い大きな発見につながるというケースが多いように感じる。豊かな好奇心を持つこちで大きな謎に挑むことになり、強い執念が偶然を引き寄せ、思いつきである大胆な仮説を生み、それが大発見につながっていく。
大きな謎に挑む。突飛な思いつきを大事にする。新しいものへの好奇心。偶然に身を任せる。運を招き寄せる。広い視野と多角的な視点。、、いきあたりばったりで進んでいくと、運がよければ「いきあたりばっちり」になることがあるということか。それが創造である、そういうつもり進んでいこうか。創造は深い。