映画「トキワ荘の青春」。「鹿島茂コレクション『稀書探訪』」展。トキワ荘マンガミュージアム。

池袋、霞が関、豊島区を駆けめぐった一日でした。1.1万歩。

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池袋。「シネマ・ロサ」で、今日が最終日の映画「トキワ荘の青春」(デジタルマスター版)。寺田ヒロオ本木雅弘)。藤本弘阿部サダヲ)、安孫子素雄石森章太郎赤塚不二夫、、そして手塚治虫。静かなシーンの連続で、新漫画党の貧しいが仲間意識の強い青春が淡々としたトーンで描かれている。

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霞が関。日比谷図書文化館で「鹿島茂コレクション『稀書探訪』」展。

ANAの機内誌「翼の王国」に、2007年4月号から2019年3月号まで12年間144回の連載「稀書探訪」の企画展。

私が一つのテーマとして意識している「コレクター」についての旅の一貫。

収集家と表現者。収集というデーモン。類似性と差異性という原則。「アルものを集めて、ナイものを創り出す」。表現者は創造する。コレクターは再創造する。
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豊島区椎名町トキワ荘マンガミュージアム

漫画の聖地。もっとも有名なアパート「トキワ荘」。里中満智子座長。

切磋琢磨。青春の日々。昭和30年前後。友情。梁山泊。4畳半。共同生活。
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「名言との対話」5月26日。内田魯庵日本の政治家といふ奴は政治で飯を喰はうといふのぢやから良心の切売をするのが公然の商売となりをる」

 

内田 魯庵(うちだ ろあん、1868年5月26日慶応4年閏4月5日) - 1929年昭和4年)6月29日)は、明治期評論家翻訳家小説家

江戸出身。東京専門学校中退。「女学雑誌」に文芸評論をかき、「くれの廿八日」「社会百面相」などの社会小説で注目される。のち丸善で「学燈」を編集。ドストエフスキー罪と罰」などの翻訳や文壇回顧録「思ひ出す人々」でも知られる。

『新編 思いだす人々』(岩波文庫)から、青空文庫で『文明国には必ず智識ある高等遊民あり』『鷗外博士の追憶』『温情の裕かな夏目さん』『最後の大杉』を読んでみた。

森鴎外について。「天禀 の才能に加えて力学衆に 超え、早くから頭角を出した」。「極めて神経質で、学徳をも人格をも累するに足らない 些事 でも決して看過しない」。「堅忍不抜」。「向腹を立てる事も早いが、悪いと思うと直ぐ詫まる人」。「「モウ 十二時とは何だ、 マダ 十二時とナゼいわん」と 叱りつけた。賀古 なぞは十二時が打たんけりゃ来ない」。「四時間以上寝た事はない。イツ寝るのかイツ起きるのか解らない。人間は二時間寝れば沢山だ、という言葉は度々鷗外から聞いた」。「日本人同士が独逸の雑誌で論難するというは如何にも世界的、、」。「博覧強記は誰も知らぬものはない」。「何でも書物は一生の中に一度役に立てばそれで沢山だ。そういう意味で学術的に貴いものなら何でも集めている」。「渋江抽斎 の写した古い武鑑(?)が手に入ったといって歓喜と得意の色を漲らした」。「博覧癖と 穿鑿癖」。「鷗外時代となって博物館から報告書が発行されるようになった。正倉院 の門戸を解放して民間篤志家の拝観を許されるようになっ」た「一度 冠 を曲げたら容易に直す人」。「一人で数人前の仕事をしてなお余りある精力を示した人」。

夏目漱石について。「夏目さんは好く人を歓迎する人だった」。「話が非常に上手で、というのは自分も話し客にも談ぜさせることに実に妙を得た人」。「好い上品なユーモアを混える人」。「他人に頼まれたことを好く快諾する人」。「門下生には大変好かった」。「支那趣味の人だった。夏目さんの座右の物は殆んど 凡て支那趣味」。「あらゆる方面の感覚にデリケートだったのは事実だろうが、 別けても色に対する感覚は特にそうだった」。「原稿は極めてきたなかった。句読の切り方などは目茶だった」

そして最後は、「要するに夏目さんは、感覚の鋭敏な人、駄洒落を決して言わぬ人、談話趣味の高級な人、そして上品なウイットの人」と結んでいる。

こういった人物観察の記録は得難いものがある。また無政府主義者大杉栄についても、意外な面を記している。内田魯庵は人物論が面白い。人が心を許す趣があった人だったのであろう。

女中に来客中に時刻を聞いたら「もう12時です」といった時、鴎外は「モウ 十二時とは何だ、 マダ 十二時とナゼいわん」と 叱りつけたというエピソードは知っていたが。その来客は魯庵であったのだ。

日本の政治家といふ奴は政治で飯を喰はうといふのぢやから良心の切売をするのが公然の商売となりをる」という言葉も知っていたが、こちらも魯庵の名言であったことを初めて知った。

同時代の観察者が記す人物論は面白い。文壇だけでなく、政治家、漫画家などの人物論も読む機会が多いが、いつも楽しんでいる。魯庵の「思いだす人々」はもっと読んでみたい。

参考:『新編 思いだす人々』(岩波文庫