比叡山宗教サミット35周年記念「世界宗教者平和の祈りーー気候変動と宗教者の貢献」ーー寺島実郎さんが基調講演

8月4日の比叡山宗教サミット35周年記念「世界宗教者平和の祈りーー気候変動と宗教者の貢献」のウェブ配信をみた。

天台宗曹洞宗ローマ教皇庁。仏教会。ムスリム協会。大本教(出口紅)。黒住教神社本庁。新日本連合会。妙智会。カトリック司教。全日本仏教会日吉大社立正佼成会。聞き漏らしもあるだろうが、以上のような世界と日本の宗教者が集っていた。

主宰者の挨拶「日本宗教界の総力。神仏のご加護。対話による相互理解。祈りを捧げる。弱者の側に立つ」

ローマ教皇のメッセージ「気候変動。一つの家。方法は違う。生態系の危機。環境は人に対する配慮。長期。より大きな責任。権力の構造。道徳。神仏のご加護」

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基調講演は20年かけて『人間と宗教』(岩波書店)を2021年10月に刊行した寺島実郎さん。先日訪問した折にそのことを聞いたので、40分間のWEB配信をみた。

  • 宗教者は心のレジリエンスに本気で取り組んでいる人たち。
  • 100ヵ国訪問。中東一神教ユダヤ教イスラム今日の聖地イスラエル。サウジ。インドの聖地。10年のアメリカ生活。ロンドンなど欧州。戦後の宗教なき日本。こういう体験を通して、「宗教が世界を動かしているという実感」をもっている。『人間と宗教』を書いた。ローマ教皇のメッセージ「one hyuman society ,one hyuman family」。
  • 21世紀を生きる人間は「動物とAI(人工知能)」の両方からの「人間とは何か」という問いかけをされている:2003年に終わったヒトゲノム解析チンパンジーと人間のDNAの差は1.2%(個体差を入れると1.06%)。この差は言語、意思疎通、コミュニケーションなど「意識」に関わる部分。人間は民族、宗教、イデオロギーという理由で同種族を殺せる動物。一方で仲間に対して「共感力」、シンパシーを持つ動物(山際京大総長)という特徴が際立っている。
  • 2045年にくるという「シンギュラリティ」は10年早まるという説も。「認識と意識」:レコグナイズとコンシャスネス。「認識」(センサーによる)とは学習を通じて記憶し、目的、合理性という知の活動。ここはAIに負ける。ディープラーニングで人間を凌駕(囲碁、将棋)。「意識」、人間の意識の深さによって宗教は成立している。あるイタリアの専AIの専門門家の説明。1969年の宇宙船アポロ号で月に立ったアームストロング船長らは地球がのぼってくる「アースライズ」(地球が昇る)をみて涙が出た。親、兄弟、恋人、、、。AIには涙はない。これが意識の力だ。意識についてはAIは人間を越えられない。人間は利害、打算を越えて溺れている子供を助ける。情念、そこが人間たるゆえんだ。美意識、、、。宗教は意識。
  • 人類史における宗教の淵源:生命科学、宗教人類学、認知科学ホモサピエンスは20万年前に誕生。6万年前にグレートジャーニーで出アフリカ。原因は気候変動、食を求めて、感染症などの説。3.8万年前に日本列島に到着。約1万年前に「定住革命」。大地に根ざす農耕革命(リサイクル)。気に入らない人とも共存せざるを得ない生活。コミュニオティ。智恵ーー環境適応、しきたり、他者配慮が必要になった。7000年前に「神」の概念が誕生し、人類は神々との対話で生きるようになる。3000年前、人間としての「意識」の芽生え。2500年前に「世界宗教」の同時期に誕生。中東一神教の基点、ユダヤ教。「モーゼの五書」など旧約聖書の整備。2000年前にイエスの死によるキリスト教。インドの仏陀(BC463-383)。中国の儒教の祖・孔子(BC551-479)。人間の意識の高まりの結晶としての宗教。アテネの民主制も2500年前。同時化。本当の宗教は、自分をみつめる力(内省力と共感力)と、より大きな価値が自分を見つめていることの意識(謙虚さ・神仏がみている)。キリストの愛と仏教の慈悲、他者への。
  • 世界宗教は歴史を重ねる中で「加上」しながら「進化」してきた。「キリスト教」:人類の原罪を背負い高潔な死のイエスパウロ。イエスには会っていないパウロは、神はユダヤ人の神だけではないとし、人類の普遍的な神、万民の神を誕生させた。パウロが加上しキリスト教をつくった。プロテスタントの誕生、ローマカトリックの対抗革命でザビエルが日本へ。大航海時代。近代化への動き。欧州30年戦争を終わらせる1648年のウエストファリア条約で中世から近代へ。政治の宗教からの分離。宗教改革主権国家、民主主義、資本主義の誕生。
  • 「仏教」:ブッダの仏教は究極の内省が基軸。龍樹、世親、鳩摩羅什(漢字化)、玄奘などの加上によって創造的進化をし、衆生救済の大乗仏教が誕生。
  • 日本仏教の創造性:最澄空海法然親鸞日蓮道元栄西。開祖たちはみな母なる比叡山で学んでいる。最澄「一隅を照らすは国の宝なり」は心の広い人で格下で年下の空海に頭を下げている。勇気、度量、大きさ、そして人を育てる力があった。空海は理科系のエンジニア。土木、薬学、医学。綜芸種智院。技術、完璧なロジック。法然親鸞は国家鎮護の仏教を「民衆の仏教」に変えた、日蓮の気迫、、、。日本仏教は世界仏教史の中で屹立している。
  • 宗教の偉大な可能性と恐ろしさ:今、直面する宗教の恐ろしさ。ロシア正教ウクライナ民族宗教X政治権力は戦争の正当化、美化を促す力。宗教の名を使う弱者からの収奪も。対話による共力感と可能性。共感力をひきだす基点、対話、協調、調和へ向かう力。宗教は「文化力」の結晶だ。美、正義、地球環境、大いなる宇宙観。ここが宗教者の役割。あるべき姿を考える。鈴木大拙「外は広く、内は深い」。インテグリティ(全体知)を求める心、これが宗教の役割だろう

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「名言との対話」8月5日。壺井栄「桃栗3年 柿8年 柚子の大馬鹿18年」

壺井 栄(つぼい さかえ、旧姓:岩井、女性、1899年明治32年)8月5日 - 1967年昭和42年)6月23日)は小説家詩人。主に一般向小説および児童文学童話)を主領域に活躍した作家で、戦後反戦文学の名作として後に映画化された『二十四の瞳』の作者として知られる。

壺井栄は醤油樽職人の6番目の子供であった。級長になるなど成績は良かったが一家が破産。15歳で坂出郵便局につとめる。26歳で上京、同郷の壺井繁治と結婚し、世田谷に住んだ。この時近所に林芙美子平林たい子夫妻がいた。夫はプロレタリア運動に参加する。31歳、宮本百合子、佐田稲子と知り合う。38歳で、処女作「大根の葉」を発表する。42歳、「暦」で新潮社文芸賞を受ける。以降活発な執筆を展開する。53歳のときに書いた「二十四の瞳」が映画化され栄は国民的な存在になる。57歳、壺井栄作品集25巻。67歳、内海町名誉町民、そして死去。壺井栄は、小説、童話、随筆等、生涯で1,400編の作品を残した。1992年に郷土の小豆島の映画村に壺井栄文学館が開館した。

2015年に、 小豆島で大学の合宿をした際に、小豆島映画村を訪問した。映画村では映画館があり無料で「二十四の瞳」を上映していた。「二十四の瞳」は2度映画化されている。最初は高峰秀子主演、2回目は1987年の田中裕子主演の作品である。この映画は子供の頃見ているが、戦争反対の作品だったことに驚いた。ひらいたひらいた、7つの子、村の鍛冶屋、荒城の月、仰げば尊し、などの歌が聞こえている。涙なしには見ることができない名作であった。「このひとみを、どうしてにごしてよいものか」、これが「二十四のひとみ」の原点だった。

壺井栄記念館には夫であった、壺井繁治という詩人の紹介がある。「石は 億万年を 黙って暮らし続けた。その間に 空は 晴れたり曇ったりした」
もう一人、黒島伝治という小説家の紹介もあった。「一山こゆればまた一山、一嶺こゆればまた一嶺 限りなき道ぞ楽しき」「一粒の砂の千分の一の大きさは世界の大きさである」この言葉は黒島の文学碑に刻まれている。

壁にメッセージを寄せた著名人の言葉が飾ってあった。「平和主義の結晶のような作品」。「日本のサウンドオブミュージック」。「反戦映画」。「今の時代、この映画を観れば大事なことがわかる」。「ああ、どれだけの涙を日本人はあなたの映画に涙し、悲しみを癒されたことだろう」。「人をつきつめることのない優しさ、曖昧さ、非合理、いたわり、弱さ、涙、嘆き、忍耐、諦めを肯定する力、これは日本人の財産である」。

映画村では、「二十四の瞳」の監督である「巨匠木下恵介展」をやっていた。
「私はこれまで慎ましく生きる庶民の情感を映像を通して描いてきた」「理屈でいつも忘れちゃうけど、泣いて映画を見た心はいつまでも印象に残るんだと思う。これが映画監督としての社会における義務だと思う」

「桃栗3年 柿八年  柚の大馬鹿18年」、これが遅咲きの壺井栄座右の銘である。自身は柚であると認識していたのだ。亡くなる直前の最後の言葉は「みんな仲良く」だった。