知研「読書会」第5回ーー今回は「情報」と「江戸時代」の本が中心。私は星野道夫のことを紹介。

読書会。

図メモ。黒字は発表者の言葉。赤字は私の書き込み。赤マルはポイント。黄色は本のタイトル。

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参加者の学びから。

  • 今回紹介された本は、次のとおりです。

・鳥海富士夫、山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか』日経プレミアシリーズ。情報過多の社会で、様々な問題が起きている。この根源は、とにかく注目をひきクリック数を増やすアテンション・エコノミーと、自分の好みの情報や快適な情報しか受けようとしない人間の本性であるとしている。それに対して「情報的健康」を提案し、それを保つよう心がけようと呼びかけている。

・畠山健二『本所おけら長屋』PHP文芸文庫。全19巻で165万部も売れている。笑いと涙の時代小説。江戸時代の長屋に暮らす庶民を描いている。義理人情の世界。
・ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』日経BP2020年第1位。著者は統計学専門でデータに基づく判断が大切と述べる。いくつかのクイズでいかに我々の考えにバイアスがかかっているか知らせてくれる。
・林雄二郎『情報化社会』講談社現代新書半世紀も前に書かれた本だが多くのことを教えてくれる。情報化社会とは、コンピュータだけでなくものの考え方、社会の変化、人間らしさの社会。実用性よりデザインなどが尊重される。
・圭室文雄『江戸幕府の宗教統制』評論社。徳川家康が幕府を開いたとき、3つの警戒するものがあった。武家・公家そして宗教。宗教の中でもキリシタン一向一揆。幕府は宗教を弾圧するのではなく、寺の檀家制度を利用して骨抜きにして支配した。非常に巧妙で、それが今にもつながっている。
星野道夫『悠久の時を旅する』Crevis、『長い旅の途上』文春文庫。紹介者が偶然知った野生動物写真家の星野道夫は、梅棹忠夫の山と探検賞の受賞者であった。写真家であると同時に詩人でもあった。「きっと、人はいつも、それぞれの光を探し求める長い旅の途上なのだ。」
今回は、偶然、情報に関連した本が3冊、江戸時代に関連した本が2冊紹介された。情報に関する本について、事実と真実とは違う、とか、各自が基準点を持っていること、自己の確立が必要だとか、この読書会のように様々な分野の見方や考え方が必要、など議論が特に盛り上がった。また、江戸幕府の宗教統制については他の参加者にとっても初めてでその巧みさには驚いた。
  • 今日もありがとうございました。 普段あまり読んだことのないような分野の本を紹介して頂き、興味深いお話ばかりでした。 都築さんからは「デジタル空間とどう向き合うか 情報的的健康の実現を目指して」著者:鳥海不二夫と山本龍彦の紹介で、都築さんによる図解による解説がわかりやすかったです。好きな情報だけを見続けてしまうと特定の情報しか受け入れなくなってしまい、多様な情報をバランスよく摂取することが必要というという考えは、確かにそうかも思いました。 小野さんの紹介された「本所おけら長屋」著者:畠山健二の本は、江戸時代の庶民の暮らしを落語を通して描いたお話で、日頃あまり江戸時代の庶民の生活を考えたことがなく、江戸時代の生活を考えることが難しいと感じていましたが、この本なら気軽に読めそうな気がしました 。 猪俣さんの紹介された「FACTFULNESS」著者:ハンス・ロスリングの本で印象に残った内容は、人は、思い込みにかかりやすいということがよくわかりました。私も自分がどんな思い込みをしているかもう一度客観的に見つめてみようと思いました。 黒川さんは「江戸幕府の宗教統制」の本を紹介していただき、江戸時代以降から今日までの寺の存在の意味や江戸幕府の施策など今まで知らなかったので大変興味深かったです。 私は、「情報化社会」著者:林雄二郎の本を紹介しましたが、この本は、単にコンピュータの台数が上がったとかの話でない本ということがわかりました。重厚長大な産業や封建社会的な組織であるハードな社会から、情報産業のような変化が激しい産業や柔軟で自由度の高いソフトな社会である情報化社会に移行するで、人間の考え方や欲求の変化(実用性よりデザインや色など感覚的なことが意思決定時に重視される)、社会構造の変化が生じてくることがこの本に書かれていることを説明させていただきました。この本を読むことで、これからは、表面的なデータや数値や多くの情報に振り回されるのではなく、そのデータのもとになる情報の本質を見抜いていきたいと思いました。 久恒先生からは、「長い旅の途上」著作:星野道夫の本を紹介して頂き、普段世界中を旅をすることもない変化のない日常生活を過ごしているので、熱気球で旅したり、探検家として活動しながら写真を撮ったり、詩を書いたりする星野氏のように、旅が出来たらどんなに楽しいだろうかと思いました。星野氏の本を読んでみたいと思います。 次回も読書会を楽しみにしています。よろしくお願いいたします。
  • 本日も、色んな角度からの著作紹介が有り、大変、勉強になりました。都築様御紹介の「デジタル空間とどう向き合うか」、松本様御紹介の「情報化社会」、私が紹介させていただいた「FACT FULLNESS]と情報に関する著作紹介が多かったことに、情報が氾濫する時代状況を反映していると感じました。多くの情報の中から、事実と判断していく能力とそれらの事実から、真実らしきものに近づいていけるかの議論が非常に参考になりました。江戸時代の関して、小野様から「本所おけら長屋」、黒川様から「江戸幕府の宗教統制」を紹介頂き、江戸時代に対する関心が沸きました。久恒様からご紹介頂きました[長い旅の途上」は自分が関心を持つテーマの広がりの中で、新しい人物に出会う楽しみを理解させて頂きました。

 

読書会の様子。

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私の発表した「星野道夫の資料」。

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プール:200m

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「名言との対話」11月25日。石本他家男「トッププレイヤーと言うのは、トップレベルのユーザーである」

石本他家男(いしもと たかお 1901年11月25日ー1988年5月27日)は、デサントの創業社長。

石川県出身。大阪で丁稚奉公をしたのち、1935年、ツルヤを創業。1957年、デサントブランドを創設。翌年スポーツウェア事業の石本商店を設立。1961年、社名を変更し株式会社デサントとする。当初はスキー、その後野球、スケート、自転車競技などに広げていった。1970年代のプロ野球チームのほとんどはデサントのユニフォームになった。1980年東証第一部に上場。海外ブランドの代理店事業も展開。1986年、デサントのウェアを着た中野浩一が世界選手権10連覇を果たす。1988年死去。

デサントは、石本亡きあとも、発展を続けている。直近の業績発表では、2023年3月期の連結純利益が前期比61%増の100億円になる見通しだ。過去最高益になる見込みである。新型コロナウイルス禍からの売り上げ回復に加え、効率的な在庫管理でコストを削減。22年4~9月期の純利益は過去最高となる51億円となっている。

「トッププレイヤーと言うのは、トップレベルのユーザーである」という言葉の後には、「その優れたユーザーが着用して満足する機能性の高いものであれば、一般化しても安心。優れた開発は優れた人間との共同研究から生まれる」と続く。この言葉に、トップアスリートとスポーツ用具メーカーの関係が示されているように思う。

ここで思い出すのは、オニツカ創業者でアシックス初代社長の鬼塚喜八郎だ。「キリモミ作戦」と「頂上作戦」で、4年ごとのオリンピックに照準を合わせて、商品開発を続けていく。メルボルン、東京、ローマ、ロサンゼルス、メキシコ、ミュンヘンモントリオール、、、。1964年の東京オリンピックでは、オニツカの靴を履いた選手が体操レスリングバレーボール、マラソンなどの競技で金メダル20個、銀メダル16個、銅メダル10個の合計46個を獲得している。多くの金メダリストとライバルメーカとのエピソードは『念じ、祈り、貫く』という書に紹介されている。それは国際化の道でもあった。マラソンシューズでは、寺沢徹、アベベ円谷幸吉ラッセ・ビレン、高橋尚子野口みずき、、、。

裸足でオリンピックで金メダルを獲得したアベベに靴をはかせたエピソードも面白い。アベベ印象は単なるマラソン走者ではなく、一人の哲人だった。鬼塚は「アベベに靴を履かせたい」と考え、シューズをはかせることに成功し、アベベは優勝した。鬼塚は生涯でアべべから感謝された時ほど嬉しかったことはないと語っている。

ヨネックス株式会社創業者の米山稔も同じ戦略をとった。世界のバドミントンのレジェンドになっていたインドネシアのルディ・ハルトノをラケットを改良することで応援し、全英オープン選手権7連覇を果たした。現在ではヨネックスは世界のバドミントン界で圧倒的な支持とシェアを誇っている。テニスでも「頂上作戦」を敢行する。キング夫人。マルチナ・ナブラチロワ伊達公子マルチナ・ヒンギスセレシュ大坂なおみ、などトッププレイヤーの信頼を得ている。

アシックス、ヨネックス、そして石本他家男のデサントなど、世界で成功したスポーツ用具メーカーは、「頂上作戦」を敢行していることがわかる。一人のスーパースターが誕生すると、そのスターが武器とする用具を皆が買う。それはなぜかというと、イメージもあるが、優れた使い手が満足する機能性の高いものは安心だからだ。「優れた開発は優れた人間との共同研究から生まれる」のである。

こういう観点からサッカー、ゴルフ、水泳、野球など、あらうゆるスポーツをながめてみると納得する。これはスポーツに限らない。文筆活動をする作家でも、万年筆、原稿用紙、インクなどは文豪の愛用品に皆が目がいく。優れた製品の開発の物語は、つくる人と使う人の共同研究の成果なのだということがよくわかった。