「これまでの自分」と「これからの自分」


キャリアの面では私は二度大きな決断をしている。

最初は11年前に、20年以上勤めた日本航空早期退職して、40代で大学教員への道を選択したときである。最初に雲をつかむような話があり、それが次第に形と実質を伴っていったのだが、実際の転身まで3年あったから気分はあがったりさがったりの連続だった。
このとき頭の中にあったのは、これまでのビジネスマン生活の来し方であり、これからの人生の過ごし方だった。この3年間は、毎日会う人の人生を観察して参考にしていたから、最もライフコンシャス(人生を意識する)な時期だったと思う。
これまで何をしてきたのか、そしてこれから何をしたいのか?
この問いに自問自答しながら、ビジネスマンから教育者への道に大きくカジを切って宮城大学のある仙台へやってきた。

今回は逆に東京(多摩大学)への転出であり短期間に決断する必要に迫られたが、その間私の頭の中にあったのは、最初のときと同じく、「これまで何をしてきたのか、そしてこれから何をしたいのか?」だった。
10年という月日に、自分は何を目指して、何をして、どういう成果をあげたのだろうか。
今回は50代になっており、妻や子供、親などの家族という存在のこれまでとこれからも重要なファクターにもなった。
「これまで」については、この間にウェブ時代に突入したおかげで、ホームページという強力な記憶媒体を手にしていたこともあり、あらゆる分野のデータが整理されていたのは前回と違うところだ。ウェブ時代は、ライフコンシャスが強くなる時代でもある。
「これまで」というより、「今日まで」という感覚である。
今日まで何をしてきたかが明らかになっているので、「今日から」すべきことがみえている、というように感覚が鋭くなっているようだ。

何度かあった送別会、壮行会では、「これまで」と「これから」という切り口で宮城での10年を総括した。「さよなら講義」のタイトルが、「これまでの10年 これからの10年」となったのはこういう経緯があったからだ。

私たちは人生の旅人であるが、どの時点においても、「これまで」と「これから」を関連付けて説明できることが重要である。
大学生の就職試験でも「これまでの大学生活」と「これからの社会人生活」つまりその会社での仕事をしたい動機が強く結びついていれば、面接官の心をつかむことができる。
組織内部での転勤のときも、これまでの仕事の総括とこれからの抱負を語ることができることが大切である。組織の命に従うという受動的な姿勢ではなく、自分なりに「これまでとこれから」を意識的に総括する必要がある。キャリアの充実は実はこういった習慣によるところが多いのだ。
転身の場合は、もっと強烈に、そして深く考えないと失敗する可能性が高い。
私たちの世代の多くが定年という人為的な区切りで企業を去っているが、ここでもその後の人生が充実するかどうかは、この点にかかっていることは間違いがない。

とすれば、「これまでの自分」と「これからの自分」は普遍的な問いということになる。
人生を常に意識しながら毎日を送ることを「ライフコンシャス・ライフ」を名づけてみたいが、ダイエットと同じく意識が現実を変えていくようになっていく。

ホームページ上に「これまでの10年 これからの10年」の講義の配布資料(総ページ数50ページ弱)の半分近くを掲示してみた。

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http://www.hisatune.net/html/01-kyouiku/saisyu.htm
使用した資料の一部がこちらからPDFでご覧頂けます

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