知研読書会の19回目:今回のテーマは「日本」と「科学」だった。

知研読書会⑲。

毎回経験することだが、紹介された本が何らかの関係を持っている。本同士の関係を考察し、総合のキーワードを考えるのも楽しい。

読書会はこれくらいの人数(今回は6人)がいいのではないか。

いろいろなタイプの読書会もトライしてみよう。

今回の大くくりのテーマは「日本」と「科学」だった。

日本:江戸。日本料理。人生100年。動物と人間。

科学:江戸。客観性。人類学と考古学。

私自身の大発見は、自然科学、社会科学、人文科学の誕生の歴史という視点だ。人間の内部、人間と社会、人間社会と自然という広がり、という従来の視点に加えたい。こっちは、自然、社会、人間という順番。現在は脳と心が最先端テーマ。

さっそく本を注文:『日本料理の基礎技術』。『客観性の落とし穴』。

 

以下、都築さんのまとめ。
【知研・読書会第19回 2024.1.25】
知研・読書会が終わりました。参加人数は6名でしたが、2時間たっぷりと濃い話が今回もできました。毎回、今日はどんな本が紹介されるのか楽しみにして迎えています。いつものように、今日紹介された本を簡単に挙げておきます。
■池内 了「江戸の好奇心 花ひらく『科学』」集英社新書(2023)
江戸時代は200年平和が続き、時代とともに経済的に余裕のある層が増えてきたこともあり「江戸文化」が花ひらきました。江戸文化の中の「科学」は西洋で起こって明治以降の日本も懸命に取り入れた近代科学と違う「もう一つの『科学』」で、役に立つかどうかではなくただ好奇心のままに、というものでした。「和算」「博物誌」「園芸」「育種」「技術」の5つの分野で花ひらいた江戸文化とその担い手たちを紹介しています。
「科学が役に立つかどうかよりも、科学を楽しむ」ことは現代でももっと広まっていいのではないかと思います。
 ■野崎洋光「完全理解 日本料理の基礎技術」柴田書店(2004)
著者は日本料理店「分とく山」の総料理長。日本料理の仕事を部署ごとに順を追って解説した本です。 カラー写真が豊富なのが大きな特徴です。たとえば重要な包丁使いに関しては、持ち方、研ぎ方、野菜の切り方、魚のおろし方などを丁寧に写真で追って見せていますので、指の位置や力の入れぐあい、刃の角度など、文章ではわかりづらい点も細部まで確認できます。
村上靖彦「客観性の落とし穴」ちくまプリマー新書(2023)
「数字で示してもらえませんか」「その考えは客観的なものですよね」「それって個人の感想ですよね」「エビデンスはあるんですよね」以上の考え方のどこが問題なのか?
現代は、客観性への過剰な信頼があるのではないか。自然の客観化(数値化)=自然科学→社会の客観化(統計学)=社会科学→心の客観化(行動主義心理学)=人文科学、というふうに進んできている。いま、客観性に価値をおくよりも、経験に価値をおく方向に変わるべきではないか。
外山滋比古「100年人生七転び八転び」さくら舎(2019)
出版当時95歳だった"知の巨人”の枯れない生き方。その中から特に「ころがる石は苔をつけない(A rolling stone gathers no moss)」について。もともとは、住まいや仕事をたえず変えているような者は成功しない、という意味でネガティブに使われているが、アメリカ人にとっては「優秀な人にはコケみたいなものがつかない」とポジティブな意味で使われている。イギリスとアメリカでは湿度が違うのでコケに対する考え方も違うところから来ていることが分かった。「ザ・ローリング・ストーンズ」は、イギリスにもアメリカにも通じ、全世界的な活躍をした。
■デヴィッド・グレーバー, デヴィッド・ウェングロウ他ちょ、坂井隆史訳「万物の黎明 人類史を根本からくつがえす」光文社(2023)
非常にボリュームのある本。著者は人類学者と考古学者で二人ともユダヤ人。ごく簡単に言えば、人類は自由で平等な無邪気な存在か、凶暴で戦争好きな存在として扱われてきた。人類の歴史は、これまで語られてきたものと異なり、最初から遊戯的で希望に満ちた可能性に溢れていた。苦しくなったのは近代国家以降で、日本は閉塞状態の最たるもの、としている。自由が大切、自由を取りもどそう。
先日、この本についての読書会に参加した久恒さんから、要点を拾い読みして図解にして臨んだらうまく発言できてよかった、というお話があり、こういった本の読書会に参加する際のヒントを得ることができた。
■金井真紀「はたらく動物と」ころから(2017)
長良川の鵜飼からパリの「エコ鶏」まで、はたらく動物と、ともに生きる人間を描き出す。
モンキードッグ 「犬猿の仲」はほんとうか。鵜飼の鵜 鳥が教えてくれた最高の死に方。耕す馬 野原のたんぽぽサラダ。盲導犬 自由とはビールを飲みにいく夜道。パリのニワトリ 世界との向き合い方を考える場所。動物たちは「働いて」いると思っているのだろうか?人に寄りそって、ただ暮らしているだけなのでは?後の意見交換で、日本のサル学は個体に名前を付けて識別するなど日本人と動物のユニークな関係について話が及びました。
【全体を通して】
・本の内容の紹介をたいへん分かりやすい図解で示してくれた方もいた。かつて紙の「知研フォーラム」に「本の早読み図解読み」という図解による書評の連載があったが、橘川幸夫氏の創刊した「イコール」の知研版にこういうのを復活させてもいいのではないか。・「万物の黎明」の読書会のような、外部での読書会にも機会があったら参加しよう。★次回は2月22日(木)の予定。

 

 

 

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今日は、JAL時代の仲間の会「いさお会」の昼食会に出席予定だったが、京王線が停電でストップし、万事休す。皆に会えなかった。

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概要 画像

「名言との対話」1月25日。松岡享子「絵本の時代は、心を育てる時代です」

松岡 享子(まつおか きょうこ、1935年3月12日- 2022年1月25日)は、日本図書館員文学者児童文学)、児童文学作家翻訳家学位Master西ミシガン大学・1963年)。公益財団法人東京子ども図書館理事長文化功労者

兵庫県神戸市出身。神戸女学院大学慶應義塾大学文学部図書館学科を卒業してアメリカに留学し図書館学をまなぶ。再度渡米し、昭和49年石井桃子らと東京子ども図書館を設立し、ボルチモア市立イーノック・プラット公共図書館の児童図書館で勤務。帰国後、大阪市立中央図書館の小中学生室に勤務。1967年、東京に子どものための「松の実文庫」を創設。英米児童文学の翻訳、創作、評論など多方面に活動する。財団法人東京子ども図書館理事長(初代)などを歴任した。創作に「おふろだいすき」、翻訳にボンド「パディントン」シリーズなどがある。

1969年サンケイ児童出版文化賞、1997年日本絵本賞翻訳絵本賞、1999年巌谷小波文芸賞をはじめとして受賞も多い。

著書は1968年の『くしゃみくしゃみの天のめぐみ』(福音館書店)から、2014年の『石井桃子のことば』(共著。新潮社)まで間断なく刊行している。また翻訳は1965年から2014年まで膨大な作品を世に出している。2015年には文化功労者に選ばれていることにも納得した。

『ほんのせかい こどものせかい』(文春文庫)を読んでみた。

・書物の国には国境があって、字が読めるとうパスポート持っていなければ、なかなか中には入れない

・ちょっと手を貸してやることは、書物の国の市民権をもつおとなたちみんなの義務

・読み聞かせを受ける子どもは、物語といっしょに、読み手のもつ、文学を味わいたのしむ能力をも、あわせて吸収することになります。

・物語といっしょに、さまざまのよいものが、子どもの心に流れこみます。

・幼児の時代は、絵でものを考える時代です。だから、絵本が必要になってくるのです。

・絵本の評価は、まず虚心に絵を読むことからはじめましょう。

この「名言との対話」では、意外なことに「絵本」についての仕事をした人を多く取り上げている。その過程で「絵本」の果たす役割を少しづつ考えてきた。またいくつかのイベントもみてきた。

「絵本の時代は、心を育てる時代です」と松岡享子は言う。絵本とは何か、絵本の意義はなにか、どうすれば子どもたちに絵本に親しんでもらえるか。そういうことがよくわかる本だ。絵本は、子どもたちの想像力を育てる働きがあり、そのことが子どもたちのものを見る目を育てる。そして人間として大事な「心」を育てる。多くの母親が絵本の選択に心を砕くのは、我が子の心を育むという神聖な使命を果たしているのだということを改めて思った。