神保町のPASSAGE3号店「SOLIDA」の「深呼吸書店」で橘川さんと待ち合わせ。「イコール」の相談。

神保町のPASSAGE(パサージュ)3号店「SOLAIDA」の「深呼吸書店」で橘川さんと待ち合わせ。鹿島茂がオーナーのシェア書店「パサージュ」の旗艦店だ。

雑誌「イコール」の常備店になる「深呼吸書店」の棚に、私の本も2冊置いてもらった。

ギャラリー珈琲店「古瀬戸」で、橘川さんと「イコール」創刊号に掲載する「知研」号の見本ページについての相談。市販の本格的な「雑誌」というものがどんなものかよく理解していなかった。やり直し。これも新しい体験だ。

ーーーーーーーーーーーーー

内田康夫 プロフィール【浅見光彦記念館】

「名言との対話」3月13日。内田康夫「推理は愛」

内田 康夫(うちだ やすお、1934年11月15日 - 2018年3月13日)は、日本の推理作家

2017年8月に 軽井沢浅見光彦記念館を訪問した。 女性ファンの多い浅見光彦シリーズの著者内田康夫がつくった架空の人物の記念館だ。浅見光彦の愛車ソアラがみえる。 主役の浅見光彦は永遠に33歳だが、内田康夫は生身の人間だから年を重ねていく。

ルポライターの浅見光彦を主人公としたミステリーのシリーズは、日本各地で起こる難事件を解決していく物語で、ドラマや映画にもなる。累計発行部数約9600万部に上るベストセラーだ。浅見光彦シリーズは116冊。内田康夫の著書は全部で163冊を数える。浅見光彦友の会や内田康夫財団等が存在しているとは面白い。累計では1億冊以上の部数の人気作家だ。

内田康夫はデビューが遅く、46歳から36年間の執筆生活である。自身でも「遅咲き」と自覚している作家だ。怒涛の仕事量であるが、デビューは遅く、また偶然作家になったのは意外ななりゆきからだった。友人にバカにされて行きがかり上、「死者の木霊」を書き上げて1978年度の江戸川乱歩賞に応募して二次予選で落選し、それを3000部ほど自費出版して店頭に置いてもらったのが翌年12月。3月8日の朝日新聞日曜版に好意的な書評が載った。それがきっかけで推理作家になった。

再現されている内田康夫の書斎の机に座ってみた。福江市史、鴨川市史などの市史、千葉県の歴史など県史、五島史などの民俗本、「街並み細見」の西日本編、「みやぎの峠」、岡山弁会話入門講座、「ふくしまの祭りと民俗芸能」などの資料が並べてあった。普段から以上のような資料を使って書いているのだろう。ワープロは、一貫してオアシスの親指シフトボードだ。

全国の県別の作品の棚がある。私の出身の大分県は、「湯布院殺人事件」と「姫島殺人事件」。多摩では「多摩湖殺人事件」がある。

私はこの人の作品を読んだことはないので、エッセイを手に入れて読んでみた。エッセイは作家のホンネが出るから読むようにしている。「存在証明」(角川文庫)の「あとがき」には内田は「エッセイには著者の本音が出る」から、尻込みしていたが、やむなくエッセイ集のあとがきを書く羽目になった経緯が書かれていた。やはりそうなのだ。

内田夫妻は作家になった翌年の1983年から軽井沢に住んでいる。それはなぜか?「四季の移り変わり」「不便さは車さえあれば解決できる」「東京へゆく楽しみが増えた」「自然と都会の理想的な接点」「夏は仕事にならないほど人が訪ねてくる」。記念館にたまたまいらしたエッセイストでもある奥様(早坂真紀)は「春夏秋冬の四季がはっきりしているのがいい。冬もね」とおっしゃった。ドイツまで取材の足を延ばしたという作品を勧められた。訪ねた当時、内田康夫脳梗塞で左半身まひになっていた。「筆を折ったのですか」と奥様に聞くと「違います。休筆です」とおっしゃっていた。 

葉室麟(1951年生)という作家は、地方紙記者、ラジオニュースデスク等を経て、50歳から創作活動を開始する。私は2012年に直木賞を獲得した「蜩ノ記」や日田の広瀬淡窓兄弟を描いた「霖雨」を読んでいる。内田康夫と同じく、遅咲きの作家である。2017年7月10日の65歳の時点で、「体調管理を万全にして、なすべき仕事をなしとげなければならない」と決心した。これからなそうとする仕事のために自分自身のメンテナンスをしっかりしなければ、人生の最終コーナーをまわることはできない、と決意しているのだが、その年の12月23日に66歳で亡くなってしまう。代表作、ライフワークは時間が足りなくて完成しなかったのであろう。ファンは皆、脂の乗り切った葉室の書く作品を読み続けたいと言って、惜しんだ。「代表作、ライフワークを遺したか」という問いは、自分自身にも問いかけたい切実な言葉だ。

同じ遅咲きの作家でも、66歳で亡くなった葉室と83歳の内田とは仕事量が違う。創造的な仕事では、いつまで仕事ができるかは重要なポイントである。

「僕だったら、希望を持つことと、他人に希望を抱かせることが女らしさだと思いますけどね」は、作中で浅見光彦に言わせた内田康夫の言葉だ。外からは幸福に見えても希望がなければ生きている甲斐がない。どんな苦しい境遇でも希望があれば、やっていける。

NHKアーカイブ「あの人に会いたい」で内田康夫は「推理は愛」と意外な言葉を語っている。「相手をおもいやる。相手の立場になって考えることが愛」「推理も同じです。事件の背景にある者を思いやる。そこから始まると推理の幅が広がっていく。推理するにもやさしがあって欲しい」。「推理は愛」は、ミステリーで人間模様や愛憎を描く内田康夫の旅情ミステリーの哲学だ。