「親愛なる孫(正義)君へ---”忙”は心を亡ぼすこと」(野田一夫)

今週月曜日は、日本総合研究所の理事会・評議員会が赤坂の野田一夫事務所で開催された。
私は評議員を仰せつかっている。この日本総研は、現在は野田一夫会長、寺島実郎理事長のコンビで運営されているが、1970年に設立され40年にわたって日本のシンクタンクンの先駆けとして活躍してきた財団法人である。出発時は茅誠司理事長、野田一夫所長という布陣だった。幸い私は野田一夫、寺島実郎という傑出した人物に師事するという幸運に恵まれてきた。

野田先生は、毎週友人・知人数千名に葉書通信を送り続けている。自宅に届く「Rapport」を楽しみにしているが、この葉書にはその週の最も印象深いトピックスが名文でつづられている。本日届いたRappot818号は、「親愛なる孫君へ---”忙”は心を亡ぼすこと」だった。親しいソフトバンク孫正義社長への友情あふれる直言で心を打つ。

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先日、菅首相の横で「、、、あと十年もつづけてください」と笑って叫んだ君をテレビで偶然みかけ、思わずわが目と耳を疑った。三十余年に亘って君に心から敬愛感を抱いてきた年長の友人として僕は、今多くの国民の非難の的となっている”死に体”の権力者に、君が嬉々と接近したことを憂うる。
退陣表明後も”居座り”に汲々としている菅首相は、君が突然”自然エネルギー開発”を表明した相前後、それまで口にもしなかった大規模”太陽光パネル”構想を急に打ち出すとともに、「再生可能エネルギー特別措置法案」提出までしようとしている。これは、果たして偶然の一致なのだろうか?
自然エネルギーの開発技術が完全に実用化されるまでには予想以上に長い年月を要するはずだ。だから、60歳で引退を公言してきている君が全力を傾注すべき目標は、やはり、わが国の情報基盤(=”光の道”)の完全自由化ではないのか?
政治家は概して利己的だから、君の価値は、君の人柄とか理想ではなく、君の名声と財力だ。彼らは人一倍猜疑心が強いから、菅失脚後は、自民党はおろか民主党の主要政治家も君とは社会的距離を置くだろう。そして彼らは非情だから、ひとたび君の落ち度を見つければ、躍起となって襲ってくる。これまでの人生で、僕はそうした例を嫌というほど見てきた。
仮に、そういう政治家を手玉にとるだけの知恵としたたかさが君にあったとしても、残念ながら最近の異常な忙しさは、その才能の発揮を妨げるに違いない。長年君を見つづけてきた僕はには、今の君は30年前の大病以来の危機に立っているように思える。あの時の危機は単に肉体的なものだったが、今回の危機は精神にも及びかねない。”忙”の解字は「心を亡ぼす」ことだということをくれぐれも銘記してほしい。

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「財団法人日本総合研究所の40年--歴史と未来の接点を見すえて」という冊子が、日本総研の理事会・評議員会で配られた。その冒頭に寺島実郎理事長の「道に迷わば木を伐りて年輪を見よ」というメッセージが載っている。日本総研40年を総括し、東日本大震災を受けて次の20年をいかに創生するかという問題意識を語っている。
地震津波原発事故という三重苦の中で、根底から日本社会の構造転換を模索せざるを得ないこととなった。いかに次の20年を創生するのか。JRIも、シンクタンクとしての誇りをかけて、このテーマに取り組まねばならない。」
このメッセージの前段に、インテリジェンス機関としてのシンクタンク論が書いてある。シンクタンクマンの心すべきことを語っているのだが、時代に立ち向かおうとするあらゆる人への力強いメッセージのように聞こえる。

  • 問題解決型の情報活動をインテリジェンスと呼ぶ。
  • 世界のシンクタンクにおいて、時代の解析と課題解決に立ち向かっている人間は、生身の人間として実に興味深く、洒脱で魅力に溢れているということである。つまり意見交換を通じて感じることができるのは、論理性や理性もさることながら、人間としての感性、情愛が豊かで、熱い正義感とか問題に挑みかかる情念に溢れているということである。
  • 人間としての素心、つまり豊かな感性が、結局のところ問題の本質を感じ取り、人の心を動かし、問題を解決する基盤であることを示唆していたのだと思う。現実に問題を解決できる人材とは、そういう人物なのだ。
  • 、、、それにもとづく課題解決を求めるには、時代に立ち向かう人間としての筋道の通った問題意識と熱い情熱が不可欠である。私は、JRIの未来を、ここを支える人間の理性と情熱のバランスの中に探究していきたいと思う。
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今日は、会議やゼミの後、夜は京王永山にこの4月に開所したインキュベーション施設「ビジネススクエア多摩」で、ここに入っている入居者と多摩大教授陣との懇親会があり出席した。この施設は多摩市から多摩大学総合研究所が運営を受託している。多摩大側からは、松本、中庭、梅沢、斉藤、金、浜田の各先生、学長室の山本さん、それに私が参加した。各自の自己紹介から始まり、ビールとおつまみで、2時間の懇親となった。この施設は多摩大の出城的に位置付けて、教授、学生が日常的に出入りするようにもっていきたい。その第一歩だ。