梅棹忠夫著作集第14巻「情報と文明」を読了。 

 梅棹忠夫著作集第14巻「情報と文明」を読了。
梅棹忠夫著作集第14巻「情報と文明」を読了。
情報の文明学。情報論ノート。メディアとしての博物館。以上3冊の著作をまとめた。いずれも恐ろしく内容が深く、衝撃的だ。

「情報産業論」は「文明の生態史観」と並んで梅棹の最も重要な論文であろう。「文明の生態史観」は空間的な面から人間の文明の姿を論じたものである。一方「情報産業論」は歴史的な面から人間の文明を論じたものだ。文明は人間に関わるものであるが、情報と言う面から見ると人間ももちろんだが、生物あるいは宇宙も視野に入っておりより重要な論文であるかもしれない。両方を重ねてみると梅棹忠夫の文明論の骨格ができあがる。
梅棹によれば、人類は農業時代、工業時代、そして現在は情報産業時代の曙の時代だということになる。それぞれ胃袋の時代、筋肉の時代、そして脳神経系の時代と対応している。人類は全体として自己実現の最終段階に入ったというのが見立てだ。
「情報産業論」は1962年(昭和37年)に書き翌年1月に発表された。その後50年近く経ったが、情報産業の時代は梅棹忠夫の予測通りに展開していると思う。農業も工業もなくなりはしないが、農業にも工業にも情報化が急激に進展しているのだ。サービスを中心とした経済になっていくというとらえ方ではではなく、この時代は主要な価値が情報となる時代だと捉えなければならない。。

情報という言葉をコンピューターというような狭い概念で使ったことによって、情報という言葉を用いた大学の学部は小さくなってしまった。私のいる大学でもそうだが、情報はもっと幅広い文明史的な概念で捉えるべきかもしれない。社会の価値の中心が情報であると考えることが必要だ。ファッションも、食べ物も、住宅も、最低要件以上の例えば肌触り、味、快適さなどがより重要になってきた。つまり情報産業になった。従来の第一次産業第二次産業第三次産業と言う分類はすでに過去のものになってしまっているはずだ。すべての産業が情報産業になりつつある時代である。

情報の価格はどうやって決めるのか。そこには原価という考え方がないから工業時代とは異なった決め方が必要だ。21世紀に入った今、GAFAなどの情報のプラットフォームを握る企業が世界を席巻している。彼らの稼ぎは額に汗して働く工業時代の企業では考えられないほどの高みにある 。原価は極めて安い。経営資源は人だけであるとも言える。平成日本は情報産業時代に入ったことを理解できなかったために衰退しつつある。時代認識を誤ったのだろう。

梅棹忠夫の洞察に改めて耳を傾けるべき時だ。

 

梅棹忠夫著作集 (第14巻) 情報と文明

梅棹忠夫著作集 (第14巻) 情報と文明

 
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「名言との対話」4月22日。船戸与一「もし若いときに旅をしなかったら、くたばる前にどんな思い出話をするのか。もっと人生を楽しむことを考えたほうがいい」
船戸 与一(ふなど よいち、1944年2月8日 - 2015年4月22日)は、日本小説家
早稲田大学法学部卒業。在学中は探検部に所属。第三期生だった。アラスカのエスキモーを訪問し、本名で共著『アラスカ・エスキモー』を刊行している。 小説家の西木正明は探検部の先輩である。
出版社勤務などを経てフリーに転身し、1979年に『非合法員』で小説家デビュー。主に冒険小説の分野で高い評価を獲得している。主な受賞歴に吉川英治文学新人賞(『山猫の夏』)、日本推理作家協会賞(『伝説なき地』)、山本周五郎賞(『砂のクロニクル』)、直木三十五賞(『虹の谷の五月』)、日本冒険小説協会大賞など多数。
著書には「砂のクロニクル」「海燕ホテル・ブルー」「虹の谷の五月」「祖国よ友よ」「非合法員」「夜のオデッセイア」「群狼の島」「山猫の夏」「銃撃の宴」「神話の果て」「カルナヴァル戦記」「猛き箱舟」「伝説なき地」「メビウスの時の刻」「緑の底の底」「かくも短き眠り」「黄色い蜃気楼」「午後の行商人」「龍神龍神一三番地」「緋色の時代」「三都物語」「河畔に標なく」「降臨の群れ」「藪枯らし純次」などがある。
今回私が読んだ『虹の谷の五月』は、1998年から2000年までの、フィリピン人と日本人の混血の主人公が13歳から15歳までのフィリピン・セブ島を舞台にした物語だ。船戸は冷戦構造の崩壊によって物語が書きにくくなったと言い、新たな冒険小説を書こうとした。主人公を幼い少年に設定して書き終えて、小説への新たな闘志が健在であることを確認し、次のステージに向かっていく。その転機の作品に2000年の直木賞が与えられた。
船戸与一の若い人へのアドバイスがいい。

・主体的に生きてもいいけれど、何も考えずに世間が命じるままに生きてもいい。向いている仕事なんて、実はない。そんなもの、自分ではわからないんです。私だって今でも向いてないと思ってるんだから。それよりも目の前のことに誠実になることです。そこから始めたらいいんです。

・本気のものは人を惹きつける。これは小説に限らずだと思う。

早稲田大学探検部の初期メンバーの船戸与一の「旅をせよ」という発言には、探検部で鍛えらえた私は共感を覚える。冒頭の言葉では「若いとき」と言っているが、これは生涯にわたって言えることだろう。旅、特に一人旅は世界を広げる。そこで体験した驚きが人生に深みを与えてくれるのだ。旅をして、人に会い、本を読む。その繰り返しを楽しもう。 

船戸与一と叛史のクロニクル

船戸与一と叛史のクロニクル

 

 

虹の谷の五月

虹の谷の五月

 

 

 

 
 
 
 
7:00 (2 分前)