(後姿探検隊。福岡空港のレストランで)
今日はいくつかの締め切りに対応した。
書く。
- 『HONMARU 書籍(仮)』へのエッセイを投稿。「リモート読書会をコロナ禍に始めてみた」。1000字。4月に刊行。「、、、、2025年からはコロナ禍で手にした広く浅いリモート読書会と、狭く深いリアル読書会を統合した「ハイブリッド読書会」に進んでいこうかな。私たちは、あの忌まわしいコロナ禍をくぐって、読書の楽しみが増えた新しい世界を生きているのだ。」
- 「川柳まつど」への1月分の投稿。4題・3句の計12句を送付。「順風に 帆が絡まった 悪夢みた」(発展)。「風の子に 着ぶくれさせて 弱くする」(ふかふか)。「福禄寿 どれか一つで いいんだが」(ファンタジー)。「ウソつくな おみくじいつも 吉と出る」(弾む)。
- 「戒語カルタ」の48句を選句。
- 「アクティブ・シニア革命」の編集後記を書く。
読む。
聴く。
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「名言との対話」1月15日。吉野弘「2人が睦まじくいるためには 愚かでいるほうがいい 立派すぎないほうがいい」
吉野 弘(よしの ひろし、1926年(大正15年)1月16日 - 2014年(平成26年)1月15日)は、日本の詩人。享年87。
山形県酒田市生まれ。山形県酒田市立酒田商業学校を戦時繰り上げ卒業。帝国石油に就職。過労のため肺結核のため3年間療養した。コピーライターを経て文筆業になる。「櫂」同人。 1972年、『感傷旅行』で第23回読売文学賞の詩歌俳句賞。1990年、『自然渋滞』で第5回詩歌文学館賞。「祝婚」のほか、国語の教科書にも掲載された「夕焼け」、「I was born」、「虹の足」などがある。ドラマ「ふぞろいの林檎たち」(山田太一)のセリフに登場したり、ロックアーティスト・浜田省吾のアルバム中に引用されたりしたほか、いくつもの教科書に掲載されている。
2人が睦まじくいるためには 愚かでいるほうがいい 立派すぎないほうがいい 立派すぎることは 長持ちしないことだと 気づいているほうがいい 完璧をめざさないほうがいい 完璧なんて不自然なことだとうそぶいているほうがいい 2人のうちどちらかが ふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい 互いに非難することがあっても 非難できる資格が 自分にあったかどうか あとで 疑わしくなるほうがいい 正しいことを言うときは 少しひかえめにするほうがいい 正しいことを言うときは 相手を傷つけやすいものだと気づいているほうがいい 、、、でありたいとか 正しくありたいとかいう無理な緊張には 色目をつかわず ゆったり ゆたかに 光を浴びているほうがいい 健康で 風に吹かれながら 生きていることのなつかしさにふと 胸が熱くなる そんな日があってもいい そして なぜ胸が熱くなるのか黙っていても 2人にはわかるのであってほしい
以上が経歴だが、本人が自らの素性を語ると以下のようになる「37歳でサラリーマンを辞める。経理マン、次に労務マンとして社内報を担当。浅草寺のおみくじをひくと「この年の星まわりの人は、愚痴はこぼすが、こぼすだけで決断と実行力に乏しい。一生、愚痴をこぼしているでしょう」とあって、歯ぎしりする。それが辞めるきっかけになった。CM事務所のコピーライターになるが、39歳、けんかして独立するも不況で解散。46歳で出した詩集『感傷旅行』が翌年に読売文学賞を受賞。50歳前までは、時間の自由を得るかわりに収入が激減し、その分をカバーするために働いた。書いている55歳は中年後期と認識している。中年はおみくじの言葉に身体を刺しぬかれたのが始まりだった」。
「正しいことを言うときは 少しひかえめにするほうがいい」「パチンコに走る指たちを責めるな。麻雀を囲む膝たちを責めるな。水のない多忙な苦役の谷間に、われを忘れようとする苦しみたちをも責めるな」、など吉野弘の詩は優しい視線が特徴だ。
吉野のエッセイ集 『詩の一歩手前で』(河出文庫)を読んだ。
「外国の軍隊より先に、祖国に対して自衛しなければならないように思えてくる」と公害問題を摘発している。また、この人はあらゆるものに怒っている。電車内では、座り方、新聞を読む人の作法、あくび、くしゃみ、混んでいる空間での持ち物の持ち方の無神経さ。すべて他者が欠落している。また疑獄事にも。そしてその刃は自分にも向かう。
詩人らしく、言葉にも敏感だ。「第一戦」「破損中」は間違い。誤字の解説はユニークだ。「見構え」「冷暖防」「孫にも衣裳」「鳩首を集めて協議」「古枯し」「視先」「自満」「快刀乱麻の大活躍」「一諸」「完壁」「貯める」「一勢に「抱擁力」「五里夢中」、、、。「幸と辛」「土と士」「往と住」「怒と恕」「舞と無」「末と未」の関係と違いなどの蘊蓄も面白い。
「祝婚歌」が代表作だ。「祝婚歌」は吉野が姪の結婚式に出席できないため、姪夫婦に書き送った詩である。夫婦のあり方の提言であり、結婚式の祝辞でよく使われる。
2人が睦まじくいるためには 愚かでいるほうがいい 立派すぎないほうがいい 立派すぎることは 長持ちしないことだと 気づいているほうがいい 完璧をめざさないほうがいい 完璧なんて不自然なことだとうそぶいているほうがいい 2人のうちどちらかが ふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい 互いに非難することがあっても 非難できる資格が 自分にあったかどうか あとで 疑わしくなるほうがいい 正しいことを言うときは 少しひかえめにするほうがいい 正しいことを言うときは 相手を傷つけやすいものだと気づいているほうがいい 、、、でありたいとか 正しくありたいとかいう無理な緊張には 色目をつかわず ゆったり ゆたかに 光を浴びているほうがいい 健康で 風に吹かれながら 生きていることのなつかしさにふと 胸が熱くなる そんな日があってもいい そして なぜ胸が熱くなるのか黙っていても 2人にはわかるのであってほしい
長女奈々子に向けた詩「奈々子に」もいい。親の愛情がわかる名詩だ。
赤い林檎の頬をして 眠っている 奈々子 お前のお母さんの頬の赤さは そっくり
奈々子の頬にいってしまって ひところのお母さんの つややかな頬は少し青ざめた
お父さんにもちょっと 酸っぱい思いがふえた 唐突だが 奈々子 お父さんは お前に 多くを期待しないだろう ひとが ほかからの期待に応えようとして どんなに
自分を駄目にしてしまうか お父さんは はっきり 知ってしまったから お父さんが
お前にあげたいものは 健康と 自分を愛する心だ ひとが ひとでなくなるのは 自分を愛することをやめるときだ 自分を愛することをやめるとき ひとは 他人を愛することをやめ 世界を見失ってしまう 自分があるとき 他人があり 世界がある お父さんにも お母さんにも 酸っぱい苦労が増えた 苦労は 今は お前にあげられない お前にあげたいものは 香りのよい健康と かちとるにむづかしく はぐくむにむづかしい 自分を愛する心だ
2014年に87歳で永眠したが、死後もさまざまなイベントがあり、注目を集める現代詩作家の一人である。詩は永遠の命を持っている。吉野弘は最愛の娘・奈々子に「自分を愛せ」と語りかけた。それが世界の始まりだからだ。『詩の一歩手前で』ではなく、詩集そのものを手にしたい。