『いい人間関係をつくる「心の習慣」』(全日出版)今週発刊

まえがき       久恒啓一


友人の和泉育子さんとの共著で人間関係に関する本を著すことになった。初めて会ったのは、「私の書斎活用術」(講談社)という本の取材だった。当時私は30歳を過ぎたあたりで知的生産の技術研究会という勉強会に参加し、活動を始めたばかりだった。著名人の「書斎を訪問するというワクワクするような企画だった。グループインタビュアーという肩書きの和泉さんの印象を当時の私はその本の中で、こう記している。


 今回の取材で気がついたことだが、われわれには女性の取材は難しいのかもしれない。俗世界に住むわれわれは、もしかしたら大事なものを失ってきたのかもしれないと反省させられた。世の中には、心の美しい人がいるものだわい、とあらためて感心したしだい。


 美しい音楽を愛し、豊かな言葉を愛し、多くの人を愛し、自分を愛することってすばらしいな。(取材メモ:1981年8月29日)


その後、10年ほど経って、「エニアグラム」という性格による自己分析の優れた世界の手ほどきを和泉さんから受ける機会があった。その面白さにはまった私は、ワークショップにも参加し、アメリカの権威の講習も受けるまでになった。今ではこの考え方を教育の現場でも活用している。


そしてまた、10年ほど経って、仙台で「キャリア開発」に関する理論と仕組みを開発した私は、当時福岡にいた和泉さんに性格理解の担当講師をお願いして一緒に仕事をする機会を持っている。その延長線上に今回の本の企画が浮上したというわけだ。


エニアグラムの考えから言うと、和泉さんは詩人肌で個性や心の動きに敏感なタイプだ。私はいつも何かに夢中になって元気に行動しているというタイプだ。


「君子の交わりは水の如し」と中国の故事にあるが、和泉さんと私の細く長い交流には、こういう感覚が漂っている。


人間関係はまことに難しい。私自身もあちこちぶつかりながら何とかここまで過ごしてきたが、その過程で知った知恵や習慣について語った文章を、若い人に読んでもらいたいと思う。若いということはエネルギーにあふれているということだが、山登りにたとえるとまだ登山口に入ったところで、見晴らしが悪い地点にいるともいえる。自分の脚力に対する自信も不確かだし、まわりの景色もよくない。そしてゴツゴツした岩肌にぶつかったり、ブッシュの中でさまよったりしている。もちろん頂上はまったく見えない。


そういう中で、時間をかけて悪路を登ってきて、ようやくやや見晴らしがよくなってきた段階にいる2人が、人生の先輩として若い人にアドバイスをしてみようというのがこの本の趣旨だ。内面を大切にする和泉さんと外に出て行こうとする気質の私という2人の、人生経験とそこからしみ出てきた「心の習慣」を参考に、素晴らしい人生をおくる人が少しでも現れたら心から嬉しく思う。


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