「注目の学部学科 デザイン系」に登場−−河合塾Guideline

河合塾(全国進学情報センター)の出している「Guideline」(7/8月号)(進学指導のための入試・大学・学習の新動向を考える)で、「注目の学部・学科 デザイン系」特集。http://www.keinet.ne.jp/doc/gl/index.html取材を受けたもので、経営情報学部にはマネジメントデザイン学科があり、私は必修科目である「マネジメントデザイン」という講義を二つ持っている。多摩大学ホームページのトップページが紹介されている。http://www.tama.ac.jp/

この「デザイン系」特集は、九州大学大学院芸術工学研究院の森田昌嗣教授、工学院大学工学部都市計画デザイン学科の倉田直道教授、首都大学東京システムデザイン学部長の福地一教授、千葉大学大学院工学研究科デザイン学科の渡辺誠教授、と理科系が中心だが、文科系のデザイン系ということで指名があったもの。http://www.keinet.ne.jp/doc/gl/09/0708/chumoku_0907.pdf
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「社会科学系の学部・学科において、デザインという言葉が使われる場合、多くは、ものごとの仕組みや在り方を組み立てていくという意味で使われる。マネジメントデザインの場合は現実の組織や企業等が直面する現実的な経営課題を明らかにし、あるべき方向へと導いていくことを意味する。もっとも、その考え方やスキルには汎用性があり、マネジメント分野以外の幅広い問題解決にも応用できる。」

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マネジメント系デザイン 多摩大学経営情報学部 久恒啓一教授 http://www.hisatune.net/index.html

  • デザインは全体を構築する力を意味し「企画力」「構想力」「創造力」と同義

どのような分野や領域においても、日々新たな課題が生まれており、そうした課題を乗り越えていくことで社会は発展しています。ここで必要とされるのは、問題のありかを明確にし、全体にとって望ましい結果が出るような解決策を打ち出すことのできる「問題解決力」です。マネジメントデザインという言葉に明確な定義があるわけではありませんが、企業などの経営活動や組織運営などに伴って生じるさまざまな問題を、どのように解決していくかという点に焦点が当てられていると考えていいでしょう。
この問題解決力の基礎にあるのは、全体を見通し、全体と部分との関係を理解する能力です。近年、社会科学の領域でデザインという言葉が頻繁に使われるようになってきたのは、社会の高度化や複雑化が進み、物事の全体像を把握することが難しくなってきていることと無縁ではありません。物事の全体像や、全体と部分の関係、部分同士の関係を理解した上で、あらためて全体を構築する能力が強く求められるようになったのです。これはまさにデザイン力であり、デザイン力不足に危機を感じたために、デザインという言葉が多用されるようになったと言えます。
そう考えると、デザイン力は「企画力」「構想力」「創造力」などとほぼ同義と言えます。しかも、これらの能力は特定の領域でだけ通用する能力ではなく、さまざまな分野で使える能力です。企業経営のほか、NGOや社会運動、各種プロジェクトなど、あらゆる組織行動や活動において発揮することができます。従って、マネジメントデザインを学ぶということは、企業や行政だけでなく、社会のあらゆる分野で発揮できるデザイン力を身につけることなのです。

  • 社会の問題を1枚の図で表現し人生やキャリアまでも図解にする

そのデザイン力をどうしたら身につけることができるのでしょうか。私は、そのポイントは「図解」にあると考えています。現実の社会現象を見ても、複雑でよくわかりません。しかし、要点だけを抜き出して、それを図示できれば、その本質が見えてきます。
ビジネスをはじめとする多くの社会的活動では、「人の言うことがよくわかる」「人にうまく伝えられる」「自分でものを考える」という3つの能力、つまり「理解力」「伝達力」「企画力」が不可欠です。このうち、理解力と伝達力は、他人とのコミュニケーション能力ですし、企画力は、自分自身とのコミュニケーション能力と捉えることができます。結局、社会は、他人や自分自身とのコミュニケーション活動によって成り立っているとみることができます。
図解は、このコミュニケーション活動に大きく貢献します。私は、図を通して物事を理解したり、企画したり、それを他人と共有したりすることを、独自に「図解コミュニケーション力」と呼んでいますが、デザイン力をつけるというのは、この図解コミュニケーション力をつけることにほかなりません。図解コミュニケーション力は技術ですから、トレーニングで修得できます。図解コミュニケーション力を高めることで、問題解決につながるデザイン力を向上させることができるわけです。
例えば、「マネジメントデザイン?」の授業ではビジネスにおけるコミュニケーションと情報に焦点を当てています。文章と箇条書きを中心とした情報処理の欠点を克服するため、図を使ったコミュニケーションの理論と技術を扱っています。授業では毎回、図解の実習を行い、学期末には『日本の論点』(文芸春秋社)からそれぞれ論点を1つ選んで1枚の図に表現する課題を出しています。
また「マネジメントデザイン?」では、経営の人的資源の活性化という視点から、日本の偉人たちのライフマネジメントを取り上げています。「仰ぎ見る師匠の存在」や「持続する志」「怒濤の仕事量」など7つの視点から、偉人たちの人生を捉え、自分自身のキャリアデザイン、ライフデザインにも結びつけていこうとしています。ここでも学生は、各自1人の偉人の生涯を取り上げ、それを1枚の図解で表すトレーニングをいます。

  • 企業経営から行政、人生論まで応用可能な図解コミュニケーション力

図解の例を挙げてみましょう。私の所属する多摩大学は、学生の教育だけでなく、研究や社会貢献も行っており、さまざまな教育プログラムや施設などと連動した多彩な活動
を展開しています。こうした活動全体を文章だけで表現するのは極めて難しいことです。私はこれを【図】のように図解で表現してみました。これを見ると、多摩大学がどういう大学であるか、一目瞭然です。
複数の入試制度を経て入学した学生に、多彩な学びのプログラムを提供することで問題解決力を修得させ、社会貢献へとつなげていこうとしている大学であることが理解できます。また、学生満足度の高い大学を目指していることや、就職支援、教員の関わり方や専門分野との関係、学生支援施設の関わり方などもわかります。ちなみに、この図はホームページに掲載されており、各部のクリックで,必要な情報にすぐにアクセスできるというメリットもあります。
図解で重要なのは、部分と部分の関係や、全体と部分の関係を見極めた上で、それら全体を1枚の図にまとめることにあります。そうすれば、文章や箇条書きでは表現できないような、物事の関係や重要度も、色や線の太さ、大きさ、形状などで、直感的に表現することができるわけです。全体図ができれば、問題解決に使えます。矢印を逆向きにしたり、項目をなくしたり、追加したりすれば、それは「改善」を意味しますし、物事の重なり具合を変化させたり、線の太さを変えたりすれば、それは「改革」ということになります。

私は多くの企業や行政でコンサルタント業務を行っていますが、いずれもこの図解による方法を用いてきました。ある部署の活動を1枚の図にできれば、その部署の全体を理解したことになりますし、企業活動全体を1枚の図にできれば、その企業の問題点の把握にもつながります。なぜなら、図解を作成するプロセスを通して、全容の理解と問題点の洗い出しが可能だからです。
極端に言えば、デザイン力とは、扱う事象を理解して1枚の全体図を作る能力のことです。そして、その図は問題解決にも活用できます。特にマネジメントやビジネスの世界では、図解コミュニケーション力を使ったデザイン力は、強力なツールとして使うことができるのです。(Guideline July・August 2009 71)