朝井リョウ「何者」--就活は自分を映す鏡のような存在

何者

何者

23歳で直木賞を受賞した朝井リョウの受賞作品。この人は東宝の新入社員で営業をやっている。社会人になったその時点で二足のわらじを履いている。そのスタイルを続ける予定だそうだ。
6人の大学4年生の就活物語で、現代の就活事情とその渦中にある大学生たちの気分や心の動きがよく描かれている。

劇団主宰の主人公、バンドをやってる同居の友人、その恋人で主人公が片思いの女子、海外留学組の女子、就職しないと宣言する人、、。
ツイッターフェイスブック、ラインなどのソーシャルメディア空間と、現実とが混ざり合って物語が進行していく。やはりこの作家は名手だ。

主人公は恋も就活も出遅れるのだが、最後は自分を自分として認めることができるようになって、希望につながっていくところで終わる。
面接で分析家の主人公は「短所は、カッコ悪いところです」「長所は、自分はカッコ悪いということを、認めることができたところです」という。最後は「だけど、落ちても、たぶん、大丈夫だ。不思議と、そう思えた」で終わる。

癖、消耗、もどかしくなる、想像力がない人、何者かである自分、探り探り、っへえー、ぬるぬる文系、もやもやと黒ずむ、ぶしゅう、人脈、バランス、蓋、違和感、不正、麻薬、やさしい言葉で心を撫でる、痛々しい、ささらない棘、羨ましさとうっとうしさ、思ってもいないことをすらすらと語る技、面接で落ちるダメージ、ミスが見えない、エリア職なんだね、ジコジツゲン、プライド、人生のドラマの主人公、就活が得意なだけ、、、、、、。

登場人物たちが互いに投げかける言葉の中に、共感するなかなかいい言葉がある。

  • 誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。
  • ダサくてカッコ悪い自分を理想の自分に近づけることしか、もう私にできることしかないんだよ。
  • 自分は自分にしかなれないんだよ。
  • そうやってずっと逃げていれば?
  • 自分はアーティストや起業家にはきっともうなれない。だけど就職活動をして企業に入れば、また違った形の「何者か」になれるのかもしれない。そんな小さな希望をもとに大きな決断を下したひとりひとりが、同じスーツを着て同じような面接に臨んでいるだけだ。

何者かであるように自分を飾る日々から、何者でもない等身大の自分の姿を知って、そして時間をかけて何者かを目指していく。そういう誰もが経験する青春の成長を描いた作品だ。
就活は、そういうプロセスを踏む上で自分を映す鏡のような存在だ。
就活生にも教師にも親にも、勧めたい作品だ。

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  • 日本大地図(上・中・下)が届いた。思わず声がでる素晴らしい鳥瞰地図帳。宣伝に「家宝」という言葉があったが、まさにそういう感じがする。

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