多摩でひと仕事。市ヶ谷の帝国データバンク史料館。代々木で知研東京セミナー。

午前:大学にてひと仕事。

午後:思い立って市ヶ谷の帝国データバンク史料館を訪問。防衛相の向かい側の10階建ての本社ビルの9階にある素敵な企業博物館だ。後藤武夫という創業者の思想と生涯、信用調査という分野の成り立ち、そして現在の事業内容とその社会的意義を探った。

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 夕刻:代々木でNPO法人知的生産の技術研究会東京セミナー。

17時半:幹事会。50周年企画、総会、引継ぎ、フォーラム編集、、、

2020年最初のセミナー:15名ほどのメンバーが参集。女性2人、多摩大の佐保君も含む現役大学生2人、と若いメンバーも。ゲストスピーカーはトヨタ関係の人で、モビリティ社会についての話で、とても興味深かった。詳細はここには書けないのが残念だ。1時間ほどの講義の後、パーティ。22時まで皆さんと話し込んだ。

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「名言との対話」1月24日。矢部良策「文化の香り高い出版」

矢部良策(1893年11月14日ー1973年1月24日)は、大正・昭和期の出版人 。創元社創立者

父・外次郎は書籍販売、福音社経営、取次などの事業を行い、大阪の四大取次の一つになった。その次男の良策は福音社に入社するが、出版にも意欲を持つ。ある新進気鋭の文芸評論家から「出版をもやりたいんです」というと、「大阪に出版社があるんですか?」と皮肉な笑顔で問い返された。この時、この人も認める出版社をつくることを決意する。

1923年の関東大震災で東京の出版社が壊滅して、入荷がなく売る本がなくなったので、いよいよ出版に踏み切ることになった。その第一作が1925年の『文芸辞典』で、「文化の香り高い出版」という志を持つ創元社の基礎ができた。東京支店では小林秀雄を編集顧問に迎えている。新鮮かつ滋味にあふれた青山二郎の装丁も評判が高かった。

谷崎潤一郎春琴抄」、川端康成「雪国」、横光利一「機械」などが話題になった。また、「茶道全集」全15巻、そして柳田国男『昔話と文学』から始まり三木清『人生論ノート』もおさめられた「創元選書」、『創元科学叢書』、『京大史学叢書』などにも取り組んでいる。カーネギー『人を動かす』などカーネギーのシリーズもある。

戦後は山本有三『不惜身命』を第1作目として『百花文庫』がスタート。貴乃花横綱昇進の伝達式で「力士として不惜身命(ふしゃくしんみょう)を貫く所存でございます」という口上で有名になった言葉だ。小林秀雄『無常といふ事』、大岡昇平『俘虜記』、、、。1954年には東京創元社を設立している。

私もこの創元社から本を出している。2010年刊行の『30歳からの人生リセット術』だ。装丁に定評のある創元社らしく、いい本をつくってもらった。この本の「まえがき」では「何者でもない自分」「自分探しではなく、自分づくりを」と書いている。最近読んで感心したのは孫崎亨『戦後史の正体』だ。

「文化の香り高い出版」という矢部良策の高い志は、長い年月をかけて独特の個性を持つ出版社をつくりあげた。1973年に良策が亡くなり、後を継いだ長男の文治は「歴史と伝統を尊重しながらも、常に新鮮でクリエイテイブな精神を忘れず、新しいテーマを探求して行く。人文書を中心とする教養書を柱に、ベストセラーよりもロングセラーを心がけて、堅実経営に徹する」と宣言している。最初に高く掲げた志によって、進むべき道と企業の性格が決まるのだと改めて思った。