ジム再開:ストレッチ。ウオーキング30分。スイミング30分300m。バス。

「全集」の校正に没頭。「図で考える人は仕事ができる」と「合意術ー深掘り型問題解決のすすめ」が終了。2002年、2005年の作品を久しぶりに読み返した。

ジム:ストレッチ。ウオーキング30分。スイミング300m。バス。ようやく再開したが、ウィルス対策に気をつかっている。人もまだまばらだ。

夜、母に電話。

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「名言との対話」6月9日。塚本邦雄「突風に生卵割れ、かつてかく擊ちぬかれたる兵士の眼 」

塚本 邦雄(つかもと くにお、1920年8月7日 - 2005年6月9日)は、日本歌人詩人評論家小説家

学校卒業後、商社に勤務。転勤した松江で鳥取在住の杉原一司と「日本歌人」を通じて知り合い、1949年に同人誌『メトード』を創刊。1951年、杉原一司への追悼として書かれた第一歌集『水葬物語』は中井英夫三島由紀夫に絶賛された。

1960年代の前衛短歌運動の先頭にたって、 寺山修司岡井隆とともに「前衛短歌の三雄」と称された。また近畿大学教授としても後進の育成に励んだ。

歌集は80冊を残した。また俳句小説評論なども多く発表している。死後には蔵書・直筆原稿・愛用品や書簡など様々な遺品が日本現代詩歌文学館へ寄贈されている。

絢爛たる語彙と強烈なイメージを駆使した短歌を残し、後進に影響を与えた。塚本の歌は難解であるが、以下比較的わかりやすいものをいくつかピックアップしてみよう。

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしずつ液化してゆくピアノ

馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ

百年後のわれはそよかぜ地球儀の南極に風邪の息吹きかけて

 五月祭の汗の青年、病むわれは火の如き孤獨もちてへだたる

青年の群に少女らまじりゆき烈風のなかの撓める硝子

少年発熱して去りしかば初夏の地に昏れてゆく砂絵の麒麟

日本脱出したし、皇帝ペンギン皇帝ペンギン飼育係りも

人生いかに生くべからざるかを憶ひ朱欒(ザボン)を眺めゐたる二時間

あぢさゐに腐臭ただよひ、日本はかならず日本人がほろばす

急速に日本かたぶく予感あり石榴をひだり手に持ちなほす

ほととぎす啼け わたくしは詩歌てふ死に至らざる病を生きむ

乳房その他に溺れてわれら存る夜をすなはち立ちてねむれり馬は

父となり革(あらたま)る莫(な)しぬかるみに石油の虹のみだるるを喩(こ)ゆ

台風は冴え冴えと野を過ぎたれば再(ま)た綴るわが片々のこころ

逝きしもの逝きたる逝ける逝かむもの疾風(はやて)ののちの暗き葉ざくら

二十世紀と言ひしはきのふゆく秋の卓上に梨が腐りつつある

人に告げるざることもおほかた虚構にて鱗(いろこ)きらきら生鰯雲

日清日露日支日独日日に久米の子らはじかみをくひあきつ

秋の河ひとすぢの緋の奔れるを見たりき死後こそはわが余生

 塚本邦雄の名前と業績については、恥ずかしながら全く知らなかった。今回作品に接してみて、跳躍する驚くべき発想、絢爛たる豊かな語彙、冷え冷えとした眼差しなどに深く感銘を受けた。「人間の愚かさ。『人間の』は、よけいだ。愚かなのは、人間以外にない」と塚本邦雄は言う。冒頭の歌「突風に生卵割れ、かつてかく擊ちぬかれたる兵士の眼 」は、戦争の悲惨さと人間の愚かさをわずか31文字であますところなく伝える衝撃の作品だ。

 

さて、以上を書いた2年後、私は「コレクション日本歌人選」と銘打ったシリーズの『塚本邦雄』(島内景二)を読んだ。この本で塚本の人物像を垣間見ることができた。

歌人は万能者たれ」が口ぐせで万能の天才・レオナルド・ダ・ヴィンチを愛し、博学だった。塚本の短歌は、誤読すれすれの詩的解釈による古典の再発見と、時代と闘う社会批判。晶子と啄木の合体であった。古典評論や小説を200冊以上も上梓している。

塚本邦雄は1938年に神崎商業学校をでて、大阪の商社「又一」に入り、一貫して経理を担当。1974年、円満退社。18歳から54歳まで、二足のわらじを履いていたのだ。現代短歌の歌聖は商社の経理マンだったのには驚いた。

寺山修司は少年から青年にいたる間の15年間、塚本から悪事の手ほどきをされたと1971年に述懐している。賭博、放蕩、喧嘩、、、。堕落の入門の手引き者だった。 1989年、68歳で、近畿大学文芸学部教授に就任し、78歳までつとめている。青年や若者を好んだ塚本は大学教授という職業を楽しんだ。

 1997年に「炎天ひややかにしづまりつ終の日はかならず紐育にも●爆」。2001年のニューヨーク(紐育)で起きた「9・11」を予見していたと思われる作品だ。

塚本の手帳の1900年から1955年までの年表に、自分の実年齢とその年に生まれた文学者たちの名前が記されている。短歌や文学の天才たちとの年齢比較していた。この年表は後に1977年までさかのぼる。メモ帳には文学者たちの年齢と作品も書かれていた。自分の前43年から、後35年の人たちを好敵手と意識しながら仕事をしたことをうかがわせる。そして自分の人生を基点に、藤原定家など短歌のライバルたちも視野に入っている。

数字にこだわる人だった。人が亡くなった「忌日」と「誕生日」に強い関心があった。手書きの「誕辰暦」が遺品の中にある。生誕暦だ。おそらく「忌日一覧」も作成していただろうと島内は言っている。このあたり、命日と誕生日を起点とする私の「名言との対話」に似ているので、親しみを持った。

2年後の今も、「突風に生卵割れ、かつてかく擊ちぬかれたる兵士の眼 」という作品を第一に挙げたい。 

塚本邦雄 (コレクション日本歌人選)

塚本邦雄 (コレクション日本歌人選)

  • 作者:島内 景二
  • 発売日: 2011/03/01
  • メディア: 単行本