「奇縁まんだら・続」(瀬戸内寂聴)――後世に残る寂聴の代表作

昨年出た「奇縁まんだら」は、島崎藤村から始まる21人の作家・芸術家との交友録で、偉大な作家たちの私生活や本音、男女関係などが、寂聴の軽妙なタッチで描かれており十分に堪能した。  

奇縁まんだら 続

奇縁まんだら 続

「続」は、2008年の1月12日から12月28日にわたって連載されたエッセイをまおとめあもので、円地文子萩原葉子島尾敏雄の3人の分は、あらたに書き下ろしたものだそうだ。そういえば、他の人の文章はほとんど記億にあったが、この3人の文章は初めて読んだ。
前作は、島崎藤村川端康成、三島由起夫、谷崎潤一郎宇野千代松本清張遠藤周作、、と絢爛豪華だったが、今回は時代が少し下がっていて、そういう意味では馴染みがある作家たちが並んでいる。寂聴より年上の人が多いが、年下もいる。そして全員がすでに鬼籍に入っている。その人たちを米寿を迎えた寂聴が愛情を持って描いて赤裸々に描いている。

菊田一夫(65歳)、開高健(58歳)、城夏子(92歳)、柴田練三郎(61歳)、草野心平(85歳)、湯浅芳子(93歳)、円地文子(81歳)、久保田万太郎(73歳)木山しょう平(64歳)、江国滋(62歳)、黒岩重吾(79歳)、有吉佐和子(53歳)、武田泰淳(64歳)、高見順(58歳)、藤原義江(51歳)、福田恒存(82歳)、中上健次(46歳)、淡谷のり子(92歳)、野間宏(75歳)、フランソアーズ・サガン(69歳)、森茉莉(84歳)、萩原葉子(84歳)、永井龍男(86歳)、鈴木真砂女(96歳)、大庭みな子(76歳)、島尾敏雄(69歳)、井上光晴(66歳)、小田仁三郎68歳)

各人の紹介では、必ず生年と没年と、享年が書かれている。また本文でも寂聴との上下の年齢差が記してあり、寂聴の立ち位置がわかる。
また、それぞれの前作で異常な人気を博した横尾忠則肖像画に加え、墓の写真と霊園の名前と場所が記されているなど、編集の統一がとれている。

森茉莉森鴎外の長女であり、萩原葉子萩原朔太郎の長女。そして小田二三郎は、寂聴の同棲の相手である。
湯浅芳子レズビアンの先駆者。

この本は人物論の一種であるが、書き出しもうまい。

「正月になると思いだす人がいる。菊田一夫さんである。」
開高健さんは、親しくなった頃からすでに肥っていた。」
「城夏子--何だか宝塚のスターのようなロマンチックで、オトメチックな名を覚えたのは早かった。」
柴田錬三郎さんは誰もフルネームで呼ぶ人はいなかった。「しシバレン」で天下に通っていた。」
「江国さんは、、、、。ほとんど笑顔など見せないので、老成した感じがした。」
 (江国先生とは、私のビジネスマン時代に何度かお会いしている。ある雰囲気のいい料理屋で見事な手品を見せてもらったことを思い出した)
「黒岩さんはハンサムだった。」
島尾敏雄さんはハンサムだった。」

「一度何した女とは別れたあとも、旅の度土産物を届けることにしている」」のは、菊田一夫
「残寒やこの俺がこの俺が癌」「おい癌め 酌み交わさうぜ秋の酒」と詠んだのは、江国滋
「ゆく春や身に幸せの割烹着」「蛍火や女の道をふみはづし」と詠んだのは、鈴木真砂女
「私と瀬戸内さんは男の趣味が同じなのね。、、」続いてCの話をして、Cに目下一番興味があると言った。その時、私はCとはそういう関係だたtので、思いがけない不快さを感じた。と寂聴に書かせた大庭みな子。
「あんたのようなわがままな人と長くつきあえる人間はおれくらいのもんだ」と威張ったが、私の側にも言わせてもえらえば、同じ言葉になる。と寂聴に書かせた井上光晴

寂聴自身のこともいろいろとわかる。

  • 4歳の子供を夫の許において家を出た。
  • 出家した翌よく年、クモ膜下出血で、左半身が麻痺して、言葉がロレったことがあった。

88年の歳月を必死に生きて、小説を書いて、多くの作家たちと交流した寂聴の自伝でもあり、文壇史でもある正と続のこの本は、人物論としても、文壇外史としても、一級のエンターテイメント性を備えている。多作な寂聴ではあるが、これは代表作として後世にも読まれ続ける息の長い本となるだろう。

前作については以下を参照。
「奇縁まんだら」(瀬戸内寂聴)--仏となった作家たちとの奇縁(2008年7月24日)
http://d.hatena.ne.jp/k-hisatune/20080724