映画「武士の家計簿」

「武士の家計簿」を観た。幕末から明治にかけての加賀藩の御算用者(経理係)をお家芸とする猪山家の三代にわたる物語である。
当時の武家は出世すると体面を保つために出費が増えていき、そのまま放置すると破産し家屋を売り払い専用の長屋に住むことになる。猪山直之は家計の抜本的な立て直しを宣言し実行する。家財を売り払い、着物は三枚に限るなどして、膨大な借金の返済にあてて後に無借金となる。そういう中でのつつましく堅実に生きた親子の絆と家族愛を描いたほのぼのとした映画である。
原作は磯田道史という学者の書いた「武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新」(新潮新書)で、監督は森田芳光
主演の直之役を演じた堺雅人「「せめて毎日を誠実に過ごすには」ということを考えた時に、直之という人間は非常に興味深い生き方のモデルを差し出していると思うんです。」と語っている。
その妻・お駒役を演じた仲間由紀恵は名演技だったが、「家族や自分の大切な人たちと一緒に日々を過ごす、ささやかだけど本当の幸せを感じていただけたら嬉しいです」と語っている。
森田芳光監督。

  • 原作は一種のビジネス書とも言えますよね。
  • 今は、「反省の時代」だと思っています。
  • シンプリ・イズ・ベストの大切さを伝えることができたら、とても嬉しいですね。

原作者・」磯田道史氏は、1970年生まれの歴史学者で茨城大学人文学部准教授。03年、本作で第2回新潮ドキュメント賞を受賞している。

  • 「なぜ支配階級の「武士がこんなに貧乏だったのか?」ということなんですね。
  • 大学院生の頃から武士の家計簿を全国津々浦々必死に探し始めたんですが、、、どこにもない。、、かんだ神保町の古書店から連絡があって、「入払帳」と記された金沢藩士猪山家の家計簿が何と36年分も見つかりました。
  • 最初は大学で日本経済史の授業をやるためのサブテキストのつもりで書いた原作が、サラリーマンの方々に多く読まれ、まさか映画にまでなるなんて全然予想できなかったですね(笑い)。

藤沢周平の作品と同じテイストの映画だった。真面目に、つつましく暮らす下級武士の誇りを描いた作品だ。
財産売却目録が興味深い。一番高い茶道具から、衣類、書籍、家具、そしてもっとも安い弁当箱までの合計は銀で2563.92匁となっており、「現代感覚」の数字がある。茶道具は110万円。妻の地黒小袖62万円、紅縮緬小袖42万円、四書正解22万円、詩作指南書等7冊14万円、机1脚3万2千円、弁当箱4千円、、、。茶道具はこの時代にもっとも大事なものだったということもわかる。合計で1000万円をやっと超えるほどの財産がこの猪山家の全財産である。当時の給金がいくらだったのか、などを知りたくなったので、原作を読むことにしたい。こういう数字は実にリアルに当時の経済や生活実態を教えてくれる。
身分に見合った人数の家来・使用人を雇わなくてはならない。その給銀や食費。拝領した屋敷の維持費。そして大きいのが親戚や同僚との祝儀や交際費用だ。また江戸詰であると藩からは十分な手当は出ないので二重生活は家計を圧迫する。そういう武士の日常生活がよくわかるので、この本は多くのサラリーマンがわが身と引き比べて興味を持ったのだろう。

168年前という幕末の動きがある1840年前後から、西南戦争の明治10年前後までの金沢が舞台であり、時代の大きな変化による映像の動きもあり、楽しめる。直之の息子の成之は明治政府に仕えるのだが、そのきっかけは長州の大村益次郎だった。

映画のパンフレットはそろばんの形をしているのもアイデアだ。

「武士の家計簿」は、アイフォンやアイパッドのアプリが映画の公式HPでダウンロードできる。森田監督のインタビューや、撮影現場での映像も満載ということだ。こういう形で電子書籍が身近になっていくのだろう。

HPを開くと、「百万石の金沢マップ」、「幕末検定」、家計簿の記念販売サイトなどもリンクしてあった。