大田昌秀・佐藤優「徹底討論 沖縄の未来」

大田昌秀・佐藤優「徹底討論 沖縄の未来」(芙蓉書房出版)を読了。

江戸時代の薩摩進攻から400年、明治の琉球処分から130年という節目の年である2010年に、米軍占領中にできた初の4年制大学・沖縄大学で行われた両者の講演と対談をもとにした本である。二人とも沖縄の久米島出身。

徹底討論 沖縄の未来 (沖縄大学地域研究所叢書)

徹底討論 沖縄の未来 (沖縄大学地域研究所叢書)

太田昌秀は沖縄県知事としてなじみのある方だが、今回その考え方を初めて知ることができた。
1925年生れ。沖縄師範学校在学中に沖縄戦を体験。早稲田大学を卒業し、ニューヨーク州シラキュース大学大学院で修士号取得。東大、ハワイ大、アリゾナ州立大で教授と研究をした後に、32歳から64歳まで琉球大学に奉職し、法文学長もつとめる。1990年から二期8年(65歳から73歳)、沖縄県知事として130万県民のリーダーとして活躍。2001年からの6年間(76歳から82歳)、参議院議員。現在は90歳になる。

第二次大戦の沖縄戦は、全人口の三分の一が命を失う一大悲劇だった。
大田は長い教育と政治の経験の中から、は軍事基地問題を解決しない限り、沖縄の明るい未来は切り拓くことは困難だと痛感している。
米軍の公式記録にも「沖縄決戦は、第二次世界大戦を通じて最も激烈であり、最も損害(米軍)の多い戦闘であった」と記されている。
この沖縄戦は、市民が盾となった戦争であり、地元住民は異民族的な扱いを受けており、1945年の3月の末から6月にかけて沖縄本島おその他の島でも集団自決が行われている。糸満市荒崎海岸でのひめゆり学徒隊の自決はよく知られている。
住民対策が行われていたなら犠牲者数は半減、あるいは3分の1に減らすことができたが、日本はそういう対策は全くしていなかったのである。

大田は「何故に沖縄だけが日本から分離されたか」という問題をずっと追っている。
米軍は北緯30度線で区切り、奄美大島は沖縄と切り離されて米軍占領下におかれた。それは大和民族琉球民族との境目であり、方言も違うし、また生態系も異なるという理由だった。
本土防衛の「捨石」となった上に、日本は自らの独立と引き換えに沖縄を敵であった米軍の占領下に委ねてしまう。当時、天皇のメッセージも日本の安全のために沖縄を犠牲にという考え方があった。結果的に沖縄は米国でもなければ、日本でもないという宙ぶらりんな立場となる。
大田は、日本本土の「民主改革」は沖縄を米軍政下に置くことが前提で成立したものであり、その立場から日本の戦後を問わなければならないという。1968年の初めての公選による主席選挙では、ライシャワー大使が60万ドルのCIA資金を沖縄に送りこみ、革新系の屋良朝苗候補をつぶそうとした機密文書も発見しショックを受けている。この時、日本政府も80万ドルの選挙資金を沖縄に持ち込んでいる。

現在の沖縄は」どうなっているか。

  • 近年、観光収入が基地収入を上回り、2倍以上になっている。観光で若者に人気があるのがエコツーリズムで、大浦湾はそのメッカ。県の環境保護指針では「現状のまま保存すべき地域」も第一位。
  • 軍事基地収入は、外部から入る(観光、政府、、)の5%ほどしかない。
  • 辺野古基地は5-7年で建設費用は7000億円と発表されているが、実際は違う。普天間にくらべ軍事力は20%増強され、空母35隻分の巨大基地になる。費用は1.5兆円。アメリカ国防総省によると、建設期間は10-12年以上。「運用年数40年、耐用年数200年」。このような基地ができれば沖縄は未来永劫に基地と同居することになる。沖縄に未来はなくなる。
  • 改憲されると戦後日本の民主主義は死滅する。
  • 軽々に対案を出してはならない。一部をパクられる。笑いものにする。
  • 沖縄海兵隊の演習を鈴木宗男議員は自身の選挙区・矢臼別に受け入れて1万票を減らしている。これは鈴木議員だけ。

大田昌秀氏は、ガンジーキング牧師を尊敬し、折に触れて二人の本を愛読している。ライフワークである沖縄基地問題の解決のために参考になるのだろう。「改憲されると戦後日本の民主主義は死滅する」という大田昌秀氏の真摯な態度と表情は胸を打つ。

この講演・対談集を読んで、経済的自立をどう果たすかという構想が、最終的に基地問題を解決する糸口になるとの感じを持った。

ある雑誌を読んでいたら、著名な論客が次のように語っていた。沖縄問題の根はやはり深い。
「中国と対峙する沖縄の地政学的意味は一目瞭然。この基地を利用して沖縄の繫栄を策するのが沖縄のためだ。民主党政権の無責任で積み残した問題を、翁長知事はさらに無責任にこじらせる構図だ」

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名言の暦 5月4日。

命日

  • 嘉納治五郎1938
    • 教育のこと、天下にこれより偉いなるはなし。一人の徳教、広人万人に加わり、一世の化育、遠く百世に及ぶ。教育のこと、天下にこれより楽しいきはなし。英才を陶鋳して兼ねて天下を善くす。その身、亡ぶといえども余薫としえに存す。
    • 精力善用。自他共栄。
  • チトー1980:
  • エアハルト1897: 妥協とは、自分が一番大きいのを手に入れたと誰もに思わすように、ケーキを切る技術である。
  • 寺山修司1983:つまらない書物というのはないが つまらない読書というのはある。どんな書物でも それを経験から知識にしてゆくのは読者の仕事であって書物のせいなどではないからである
  • 永野重雄1984:私の悪口はすぐに報告しなさい。しかし、言った人の名は言わないでください。
  • リンドバーグ1902:成功は成し遂げた内容によって測られるのではない。その人が出くわした障害の大きさと、打ちのめされそうな困難に立ち向かって奮闘を続けた勇気によって、測られるのである。
  • 長洲一二1999:人の真価は、事の成否以上に、事そのものに全力投球したという充実感にあるのだろう。

誕生日

  • 前島密1835:縁の下の力持ちになることを厭うな。人のためによかれと願う心を常に持てよ
  • 小泉信三1888:練習は不可能を可能にする。
  • 田中角栄1918
    • 私が田中角栄だ。小学校高等科卒である。諸君は日本中の秀才中の秀才代表であり、財政金融の専門家ぞろいだ。私は素人だが、トゲの多い門松をたくさんくぐってきて、いささか仕事のコツを知っている。一緒に仕事をするのは互いによく知り合うことが大切だ。われと思わん者は誰でも遠慮なく大臣室に来てほしい。何でも言ってくれ。上司の許可を得る必要はない。できることはやる。できないことはやらない。しかしすべての責任は、この田中角栄が負う。以上。
    • 一番力があるときこそ、一番難しい問題に挑戦する。
  • 大黒将志1980:中途半端な才能はいさぎよく捨てて得意な分野を24時間考え続ける。