「大地の咆哮」の著者・杉本信行氏逝く

外務省勤務33年のうち14年間近くを北京・瀋陽・台湾・北京・上海で過ごしてきた杉本信行は、2006年5月に「大地の咆哮」を書いたが、その数ヶ月後の8月3日、肺がんで亡くなった。


杉本の中国観は、外務省での地道な情報の積み重ねと分析と現地での政治・経済両面での実体験によって形成された。中国認識で重要なことは、データや机上の空論を排し、現実に即して中国を理解することだという。なかでも中国共産党が支配する「中華人民共和国中国」の現体制と「中国人一般」を同一視しないことが肝要だとも述べている。中国共産党の支配する体制はゆるぎないものにみえるが、共産党指導部内部では自信のなさ、悩み、不安、悲観が渦巻いている。党指導者たちの師弟の多くは海外留学に出ているが、これも共産党の支配体制が崩れた場合に備えているともいえる。中国指導部の最大の懸念は国内政策である。いわゆる「三農問題」、農村の貧困、農民の苦難、農業の不振である。農民の不満と怒りが高まっており、政治体制を揺るがしかねないほど深刻である。国内の不安定さゆえに、政権の正当性・正統性を維持するために、対外強硬路線をとる以外にないといった脅迫観念にとらわれているようにみえる。中国は日本にとってやかいな国であるが、少なくとも中国の失政のつけが日本に回ってこないように賢明に立ち回ることが大事である。


・中国では義務教育費用の7割以上は受益者負担

・年金基金は日本以上に破綻しているため、国内消費は15%程度と庶民はお金を使わない

・日本が中国に与えたODA総額3兆円のうち、贈与要素は65%。2兆円は中国に供与されている

・中国発展の基礎をつくたtのは日本からの円借款である

・中曽根首相靖国参拝を契機に失脚した胡耀邦によって胡錦濤は中央に引き上げられた。

・援助することによって問題を提起していく。初等教育環境保全、医療分野、貧困対策、、

・3100余りのダムからの過剰取水による黄河の断流問題。

・北京での地盤沈下。水供給の3分の2は地下水。

・668都市のうち、400都市以上が水不足

・北京から18キロにまで砂漠が迫っている

・農民には、年金、医療保険、失業保険、最低生活保障などの社会保障が受けられない

・都市と農村の所得格差は30倍

・国・省・県・市・郷鎮などの行政単位で、役人が異常に多い構造

・人口13億のうち5-6%の共産党員が統治していることの正当性・正統性のための反日教育(すなわち愛国教育つまり愛党教育)を行っている。

中国共産党プロレタリア独裁を放棄。全国民を代表する党になった。資産階級も入党した

・台湾統一は共産党の主要なレゾンデートルになっており、柔軟な対応をとるのが困難

・学費が跳ね上がり、エリート金持ちでないと大学にいけない

・対日批判を口実とした何らかの組織的な反政府運動が中国全体に広がりつつあるのかもしれない

共産党の制御力が急速に衰えている。3億台の携帯電話普及と1億人インターネット利用者

・三重の格差--都市と農村、沿岸部と内陸部、都市内における貧富の格差

・極端な格差社会は、富の再分配メカニズムが働いていないことが原因

・エネルギー効率は日本の10倍悪く、世界の3.4倍悪い

・エネルギー・資源多消費型成長は、持続可能ではない

・底なし沼の不良債権

胡錦濤外交政策と軍が平仄があっていない。軍を掌握しきれていないのではないか

・上海の高層ビルは4000棟。メンテと需要が問題。上海は地盤が極めて弱い。数年後には不等沈下

・真の情報が中南海には届いてない

・中国の問題はすべてが地球規模の問題だ