学生時代以来、久しぶりにこの名著を再読した。
死。幸福。懐疑。習慣。虚栄。名誉心。怒。人間の条件。孤独。嫉妬。成功。瞑想。噂。利己主義。健康。秩序。感傷。仮説。偽善。娯楽。希望。旅。個性。以上が、テーマだ。
「解説」を書いている中島健蔵によれば、この小著は哲学者・三木清の結論とのことだ。三木清の哲学が、どのような主体から生まれたかを示すものであり、三木清という人間への入り口なのだ。
三木清は哲学者であると同時に文学者でもある。その資質の両方がうかがえる書き方だ。
「人生においては何事も偶然である。しかしまた人生においては何事も必然である。このような人生を我々は運命と称している。」
この言葉に続いて「偶然のものが必然の、必然のものが偶然の意味を持っている故に、人生は運命なのである」、そして「運命的な存在である人間にとって生きていることは希望を持っていることである。」
この言葉にはうならざるを得ない。
いくつか言葉を拾ってみた。他にも読み過ごすような言葉も、立ち止まってよく読むと深い意味があることも多い。この書を取り上げる人が多かったのは、小著であり、テーマが明確であるから、三木清という人物の考え方がよくわかるからだろう。中島健蔵のいういように三木の結論かも知れない。
- 機嫌がよいこと、丁寧なこと、親切なこと、寛大なこと、等々、幸福はつねに外に現れる。、、鳥の歌うが如くおのずから外に現れて他の人を幸福にするものが真の幸福である。
- 習慣を自由になし得る者は人生において多くのことを為し得る。
- 義人とは何か、---怒ることを知れる者である。
- 人は軽蔑されたと感じるとき最もよく怒る。だから自信のある者はあまり怒らない。、、ほんとに自信のある者は静かで、しかも威厳を備えている。それは完成した性格のことである。
- 怒りを避ける最上の手段は機知である。
- 幸福は各人のもの、人格的な、性質のものであるが、成功は一般的なもの、量的に考え得るものである。だから成功は、その本性上、他人の嫉妬を伴い易い。
- 近代的な冒険心と、合理主義と、オプティミズムと、進歩の観念との混合から生まれた最高のものは企業家精神である。
- 健康には身体の体操と共に精神の体操が必要である。
- 知識人というのは、原始的な意味においては、物を作り得る人間のことであった。他の人間の作り得ないものを作り得る人間が知識人であった。
- 希望に生きる者は常に若い。
- 一つの所に停まり、一つの物の中に深く入ってゆくことなしに、如何にして真に物を知ることができるであろうか。
- 旅することによって、賢い者はますます賢くなり、愚かな者はますます愚かになる。
- 「つまずくのは、恥ずかしいことじゃない。立ち上がらないことが、恥ずかしい。」
- 三浦 綾子(みうら あやこ、1922年4月25日 - 1999年10月12日)は、日本の女性作家。北海道旭川市出身。小学校教師となる。第二次大戦後肺結核の闘病生活をおくり、キリスト教に入信。昭和34年三浦光世と結婚。39年人間の原罪をえがいた「氷点」が朝日新聞1000万円懸賞小説に入選,映画・テレビドラマ化されて,人気作家となった。享年77 。
- 旭川の公園の中に素敵な形をした記念館が建っている。24歳から37歳までカリエスで絶対安静でベッドの上で過ごした三浦綾子。42歳のときに朝日新聞の1千万円の懸賞小説で一席になった「氷点」を書き、その後多忙な作家生活に入る。30年間で70余冊本を上梓。全作品が並んでいる。凄まじい闘病生活。ほとばしる表現意欲と膨大で質の高い仕事に感服。この記念館は市民の声から発してできたという。
- 「秀れた人間というのは、他の人間が、愚かには見えぬ人間のことだろう。」
- つまずくことを恐れてはならない。何かをやろうとすれば、失敗はつきものだ。失敗しないということは、何もやらないことの裏返しである。つまずきの体験によって、人はすこし賢くなる。その上で、もう一度、挑戦する。その繰り返しが人生である。三浦綾子の壮絶な人生をみるとき、この人は何度も何度も立ち上がった勇気の人であることがわかる。