林真理子:「何も書いていない」、「まだ代表作は書いていない」「まだミリオンセラーを書いていない」、そして「まだまだ、頑張ります!」

NHK「あさいち」で作家の林真理子の語りをみました。

「何も書いていない」、「まだ代表作は書いていない」「まだミリオンセラーを書いていない」、そして「まだまだ頑張ります!」と、迫力と気合に満ちた発言をしていて感心しました。

 28歳の処女作「ルンルンを買っておうちに帰ろう」でブレイク、32歳で直木賞を受賞している。今回調べてみて驚いたのは、作品を書き続ける継続力、持続力の強さです。

数えてみると1980年代は単行本だけで48冊、1990年代は43冊、2000年代は52冊、2010年代は50冊と、計193冊を積みあげており、共著や翻訳を入れると200冊を越えている。40年間にわたり年に5冊のペースで話題作を生産している計算になります。

その林真理子にして「何も書いていない」というのは凄いことです。つまり生涯を代表する傑作、歴史に残る最高の作品にはまだ届いていないという認識です。60代半ばという年齢は、「青年期」(50歳まで)、「壮年期」(65歳まで)を過ぎて、私のいう「実年期」(80歳まで)にさしかかったところということになります。

「生活、人生、生命」というライフという言葉から眺めると、日々の営みが生涯を代表する作品につながり、その作品を通じて永遠の命を持つというストーリーをみている人だと感じました。ライフワークを意識した人です。

林真理子の名作読本 (文春文庫)

林真理子の名作読本 (文春文庫)

 

今までこの人の本はきちんと読んでは来こなかったのですが、『林真理子の名作読本』(文春文庫)についてブログで書いているのでアップしてみました。

東西の54冊の名作とそれを書いた作家を論評するという代物で、面白く読みふけってしまった。一冊について原稿用紙5-6枚のクレアでの連載をまとめたものだが、この作家が女性に人気が高い理由がよくわかった。目線は高いが、読者の女性と同じ女性としての作家や主人公への深い視点が共感を呼ぶのであろう。こういうエッセイ的な文章は本音がでる。

女性の生き方、年の取り方に関する考え方や智恵が記されており、同じ職業を営む作家に対する尊敬と共感と同情、そして深い人間観察もあり、読みながら確かな手ごたえを感じる本だ。

「生きていることが芸術」だった白洲正子。「古きよき時代のつつましく美しい日本人」を描いた池波正太郎。本物の自由と孤独をじんわりと味わう幸福をしっていた林芙美子。「隠れ技の天才」向田邦子。、、、。

林芙美子「放浪記」を論じた冒頭は「昔も今も、日本の男というのは、野心的な女が嫌いである。」との断定から始まる。宮尾登美子「櫂」では「宮尾登美子氏の本を、あなたがまだ読んでいないとしたら、それはとても不幸なことである」も同様だ。「宮部みゆき松本清張の長女である」。
この人の文章にはあいまいな物言いはなく、「のだ」「である」などの文末が多い。この断定が読者を魅了している。断定される快楽である。

三島由紀夫鏡子の家」などでは「これはまさしく私のことではないか」と驚きを示す。小説の愉しみには、自分では表現できない感情や本音を代わりに表現してくれ嬉しくなることがある。林真理子のこういう感情は、彼女の愛読者の感情でもあるだろう。

ここにあげた本は林真理子が好きな本である。なぜ好きかというところを見ていくと、「静けさに終始」「静謐を保ち」「清潔」「ピュアなもの」という言葉が目につく。表面的な風俗や事件を描きながら、冷徹で静かな作品が好みのようだ。

小説の登場人物には、読者の自分が投影される。平穏な人生を歩む自分のなかにある性的、金銭的な危険さ、危うさをさぐりながら読んでいるのだ。読者は共感しながら疑似体験をしている。

以下、私にも参考になったところ。

フィクションは作家で選ぶのに対し、ノンフィクションはテーマで選ぶのが正しいそうだ。そしてノンフィクションでもあるルポルタージュの肝は比喩にあるとする。比喩こそは作家の価値を高めるキーワードでもある。

「見たことや体験したことをだらだらと書くことは、誰にも出来る。桐島(洋子)さんの凄さは、自分の見たものを分析し、それを実に的確な言葉で組み立て直すところにあるのだ」は、心したい言葉だ。

「作家というのは書き続けることによってしか、過去の栄光の重圧に耐えるすべはないのだ」と言い、しだいにずぶとい神経ができあがっていく。それが「成功の咀嚼」の方法である。 

グラビアの夜 (集英社文庫)

グラビアの夜 (集英社文庫)

  • 作者:林 真理子
  • 発売日: 2010/01/20
  • メディア: 文庫
 

  「グラビアの夜」(林真理子)。編集者・スタイリスト・ヘアメイク・カメラマン・マネージャー・モデルら現代の若者の心情と生活、生態を林真理子が達者な軽い筆致で描いた作品。現代の気分を上手に表現しているので、共感を呼ぶだろうと思う。林真理子が若い人に人気があるのも当然という気がする。

 林真理子にはなんどか縁があります。

JAL広報部時代に取材のために、ご自宅にうかがったことがあります。また、「自分史フェスティバル2014」という二日間にわたった大きなイベントで、第1回では基調講演、第2回は「自分史オンステージ:書籍部門」という自分史を出版した人たちの発表である書籍部門のコメンテーターという役割で、コメントを交えながら自分史の意義と意味について講演を行ったことがあります。会場に林真理子さんががいて取材をしていて、その日の朝日新聞夕刊には1面にこの大イベントの様子と彼女のコメントが載っていました。

この作家にあらためて注目したいと思います。

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20時から24時まで深呼吸学の講義に参加。20人ほどの受講生と一緒に橘川節を堪能し、平野、田原、そして20名の時代を感じる男女の発言に刺激を受けました。

参加型社会。未来のトシ。ムーブメント。同人雑誌。市民クリエーター。学ぶ人生から育てる人生へのシフト。選ばれる自分から選ぶ個人へ。バンド。民主主義。メタヒューマン。AI、VR、ブロックチェーン、学際。メタヒューマンクリエーター。better。粘菌。ミニコミ。深呼吸小説。同じタイムライン。みるものだけをみる。

あの後、何時までつういたのかな。わたしは24時に終えました。

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「名言との対話」5月1日。宗左近「何かに縋らなければ、人は自分を救えません。わたしを助けてくれたのは、詩でした」

宗 左近(そう さこん、1919年5月1日 - 2006年6月20日)は、詩人評論家仏文学者であり翻訳家

2019年に「名言との対話」6月20日宗左近「山がはじけた 海がさかまいた 吊り橋はねた 青空さけた きみたち死んだ おれたち生きた 」という以下の文章を書いた。

 宗左近が選んだ詩とその解説書『あなたにあいたくて生まれてきた詩』(新潮文庫)を読んだ。以下、印象に残った詩をあげてみる。

「ルームライトを消す スタンドランプを 消す そうして 悲しみに灯を入れる」「おばあちゃん おはなみにいって さくらのはなが ごはんのうえに おちてきたら どうしたら いいの」「ふるさとには なんにも ない 山と 川と 空のほかには だけど 母さんがいる ふるさとには なんでも ある 夢と 友と 思い出がある だけど 母さんが いない」

2014年、生まれ故郷である北九州市戸畑図書館内に「宗左近記念室」がオープンした。2016年、市川市に詩碑が建立された。2017年、「宗左近・蕊の会」が設立され活動を続けている。市川市の名誉市民でもあることからわかるように、深く地元に影響を与えた人だった。

宗左近岡本太郎縄文土器論』に衝撃を受け、縄文土器に強く惹かれていた。宗左近が作詞した縄文ラプソディの「滝壺舞踏」の映像をみた。ピアノの伴奏にのった力強い男性合唱と、エネルギーに満ちた詩に感銘を受けた。「山がはじけた 海がさかまいた 吊り橋はねた 青空さけた きみたち死んだ おれたち生きた   石が泳いでくる 雲が喘いでくる 星が溺れてくる 月が割れてくる、、、」。鎮魂の「祈り」である。

今回は違った角度からさらに深掘りしてみたい。

あらためて調べてみると、詩集は46冊にのぼる(詩選集を除く)。1987年から亡くなる2006年までの間は、年に1冊以上のペースで出版していた(1994年は3冊)。処女詩集の『黒眼鏡』が出版されたのが1959年で、この後1985年までに出された詩集が16冊であることから、晩年の創作の旺盛さがうかがえる。

『私の死生観』(新潮新書)を読んだ。正統的な人生ではなく、縄文人大東亜戦争末期の親しい死者に取り憑かれている列外的人生を送る人の「列外人生死生観」だ。

 「 何かに縋らなければ、人は自分を救えません。わたしを助けてくれたのは、詩でした」。「自由、平等、博愛」の理念が失われたのが「地獄」であり、戦争時代だった。

「地獄」について源信『往生要集』の要点を詳細を記している。この機会に源信から地獄について学んでみよう。源信は942年に生まれ75歳で1017年に死去した学問僧で、74部150巻の著作を書いた。その主著が『往生要集』で、内容は経典、先人の著作など160数部の文献の952の文章の引用、孫引きである。浄土思想のエッセンスが集められた名著で、日本人の死生観を養ってきた重要な作品である。

三界(精神の「無色界」、清らかな「色界」、性欲と食欲の「欲界」)は安きことはない。人間が住む「欲界」には、六道(迷い)と呼ばれる「地獄」「餓鬼」「畜生」「阿修羅」「人」「天」、そしてそのまとめがある。地下の牢獄である地獄は8つあり、「等活」「黒縄」「衆合」「叫喚」「大叫喚」「焦熱」「大焦熱」「無間」の順序がある。ここは人間の処刑場だ。

源信浄土教の教義の体系化を成し遂げた人だ。世界観、哲学の宗教から、「極楽か、地獄化」という選択を迫る実践倫理を提出した。それでは「極楽」とは何か。五感ですべてを感じる世界だ。西欧の天国には階級があるが極楽院にはない。天国は遠近法絵画で、極楽は細密描写だ。天国は精神の歓喜、極楽には感覚の楽しみがあるなど現実感がある。源信の思想は仏教の日本化す勧めた革命だった。

以上を勉強したのだが、「死生観」を持つためには、日本探検として『往生要集』を読まねばならないようである。 

私の死生観 (新潮選書)

私の死生観 (新潮選書)