連載「団塊坊ちゃん青春記」第14話---下宿をとうとう追い出される

大学三年になって、私は四回目の引越しをしました。「とても良い人が来てくれた。」と下宿のおばさんは大喜びです。実をいうと、私は第一印象が良いらしく、最初はうまくいくのです。ある日、夕食を食べに階下に降りていくと、大変な美人がいるではありませんか。聞いてみると、最近この下宿の近くに引越してきた女子高生だそうです。食事をしながら、何となく気になって見ていますと、「久恒さん、手を出したらイカンとよ!!」とおばさんから注意がありました。一応「ハイ」と答えておきました。


翌朝、登校時、たまたまこの彼女と一緒になりました。どちらからともなく、映画を観に行こうということになりました。次の日曜日、彼女と公園で落ち合って、「何が観たい?」と聞くと、「私、ハレンチ学園がみたいとよ。」と云うではありませんか。丁度そのころ、この映画が流行っていました。女の子のスカートをまくったりする全くハレンチな学園の様子を描いた映画を、二人で観たわけですが、そのあと、近くの公園に行きました。うららかな春の陽がみちみちており、青や黄色のパンヂーが咲き乱れておりました。突然、この彼女が持っていたカバンで顔をかくしたのです。何事ならんと前方を見ますと、ああ、下宿のおばさんがいるではありませんか。私はすっかり恐縮して平あやまりという訳です。


ところが、やはり春です。二人の気持はおさまりません。私の部屋は、下宿の二階だったのですが、朝六時頃、彼女が登校のためにその下を通るのです。私はめざまし時計をかけ、六時前に起き上るという寸法です。しかし声を出すと、下に寝ているおばさんが起きてしまうので、私は一計を案じました。「何日、何処で逢おう」と書いた紙をヒコーキ型に折って、彼女めがけて飛ばすという方法です。「オレも、頭がいいなア」と自己満足していましたが、残念、途中で木にひっかかってしまいました。急いで2機目を飛ばしました。それで彼女もOKして又デートとなる訳ですが、運の悪いことにまたおばさんにみつかってしまいました。ある雨の日、雨の強さで木にひっかかっていた紙ヒコーキが地面に落ちてしまったのです。又、又しぼられてしまいました。


最後に、もっとひどい失敗をやらかしてしまったのです。友達の所に泊って翌朝、下宿にもどり、歯をみがいていますと、おばさんが二階に上って来ました。「久恒さん、あんた知っとるとネ!!」「エ、何ですかあ」このおばさんは、通常は、細長い眼なのですが、この日ばかりは、どういうわけか、たて長というか、三角というか、つり上っているのです。「あんたの部屋に、ウジ虫が湧いたんばい!!」と云います。「エッ、アーそうですかア」と僕。事情をきくと、おばさんが二階の掃除をしていると、ウジ虫一匹を発見したそうです。その道をたどって行くと私の部屋にいきついたという訳なのです。部屋をあけると、ほったらかしておいた何やら食べ物の中から、かなりのウジ虫が発見されたというのです。近所の人を呼んで、よってたかって退治したらしいのですが、ここでひるんでは男の恥と思った私は、「ヘエー、男やもめにウジが湧くという諺があるが、本当に湧くんですネェー」といいますと、おばさんもさすがに勘忍袋の緒が切れたとみえて「出てケー」となってしまいました。数々の失敗を重ねて、とうとう、この住みごこちのよかった下宿を出て、寮に入るハメとなってしまいました。


弟にはこの話をしましたが、人には決して云うなよと云っていたにもかかわらず、私が入っていた探検部の後輩であり、弟の同級生でもあるYという男に喋ったらしいことに気がつきました。なぜかと云うと、この後輩、部会の席で、「久恒ウジ、久恒ウジ」と慇懃無礼な呼び方をするものですから。