「勉強はやめて、けもの道を走ろう!----愚直な人ほど仕事がうまくい

ビジネス社から出す新刊本の配本が始まっている。
2008年1月1日発行なのだが、仙台の丸善でもう見かけたという情報もあるから、予想よりも早く書店に並ぶのだろうか。

この本では、私の「もう一つの現場」であった「知的生産の技術」研究会での30代の活動をはじめて詳しく書いた。
以下に「前書き」を載せるが、私はある時期から本の前書きには「この本を書くに至った経緯」を書くようにしている。いずれ著書の前書きを年代順に並べてみると面白いかもしれない。


勉強はやめて、けもの道を走ろう!-愚直な人ほど仕事がうまくいく

勉強はやめて、けもの道を走ろう!-愚直な人ほど仕事がうまくいく

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ここ1−2年ほどの間に書いた「通勤電車で寝てはいけない!」」(三笠書房)、「残業はするな、前業をせよ!」(大和書房)は、思いのほか若いビジネスマン層に読まれたようで、ネット上でも反響がかなりあった。「図解コミュニケーション」をキーワードとする私の一連の著作に親しんでもらっている層とは違う読者象が見えた気がする。
大企業での管理職経験のある私の本音や実感は、仕事の現場で悩んでいる若者にかすかに届いたようでもあり、私は若者に対する仕事や人生のアドバイザーの役割も自覚するようになった。
ウェブ進化論」「フューチャリスト宣言」などの著作で、IT時代を生きる若者に圧倒的な支持を得ている梅田望夫さんの最新作「ウェブ時代をゆく」では、冒頭で「1975年から2025年までの半世紀」は、百年後に「情報技術(IT)が世界を大きく変えた時代」と総括されるに違いない、と喝破している。私は1950年生まれだから、この歴史的な転換期である半世紀は、ちょうど25歳から75歳までの期間にあたる。前半は大企業の中で仕事をし、47歳ときに転身し今は大学で教鞭をとって10年たった時点にいる。大人になってからの50年間はIT革命の夜明けから成熟までの期間ということになり、実に得がたい経験をしているということになる。

それはさておき、「ウェブ時代をゆく」では「高速道路とけものみち」という比喩を使っている。IT時代はテーマと自由時間さえあれば高速道路に乗って一気に最先端の近くまで行くことができるし、一方で組織に属すことなく好きなテーマを追いかけながら今まで誰も歩かなかった「けものみち」を行くと、それで飯が食えるようになる可能性を描き出していて若い読者に勇気を与えている。
思えば、私は企業の中で舗装道路を歩いてきたというより、あちこちぶつかりながら独自の道を愚直に切り拓いてきたという感じを持っている。また社外のビジネスマン勉強会である「知的生産の技術」研究会(知研)を活動の場にして、自分をこれまた愚直に磨いてきたという想いも持っている。
今となってみればどちらも細く、そして見通しがきかない「けもの道」だった。けもの道といえば松本清張の同名の小説があり、誘惑に負けて転落していく久恒という名前の刑事がいたことを思い出すが、仕事でも社外勉強会でも明確な先例や先行モデルがない、その道をやぶをこいで登ってきた。

小さくない組織では20代はまだ何者でもない修行の身であるからさほど深刻ではないが、30代を迎える頃には何かをこの組織で為したいと切望している「志」ある若者は、自らの適性と専門性の構築についての悩みに襲われるケースが多い。だが自ら就きたい部署に配属されることは希でその時点での毎日の仕事と自分の意識とのずれに苦悩しながらハードワークを重ねるという人が多数である。
30歳から45歳という「魔の15年」をいかに過ごすかによって自らの将来が大きく左右されるのは間違いない。迂遠なようだが目の前に与えられた小さな問題を心を込めて一つ一つ解いていくという心構えを持って仕事に精を出し続ける以外に対応策はない。小さな問題を解くともう少し大きな問題が与えられる。それを解くとさらに大きな問題を提示される。組織においてはこの連続の中で人は育っていくのである。
問題解決の最前線に立ったとき、私たち日本人が好む言葉は「勉強」である。その言葉は日常のあらゆるシーンで耳にする。他国・他業界・他社の事例研究を勉強する、つまりはそれを真似するという行動様式は日本のあらゆる組織に蔓延している。これはいわば真似とパクリの仕事術であり、自分の現場の足元を掘り切るという単純で大事なことをおろそかにしていから深い独自解に届かないことが多いのではないか。だから勉強してはいけないと思う。

この本では、仕事へ取り組む心構えと同時に、今まで断片的にしか記してこなかった、私のもうひとつの現場であった「知的生産の技術」研究会での主に30代の活動を詳しく紹介し参考に供している。長い間、社外勉強会に参加・参画してきた私の結論は、「勉強してはいけない」だった。この場ではボルテージの高い人達から強い刺激を受けたが、彼らの知識を勉強したのではなく、そういった高みに至った独自の方法論と具体的な技術を学んだ気がしている。
 また、私はこの3年ほど、主に明治以降の偉人を顕彰した全国の人物記念館を歩くという旅を続けており、訪れた数は200館を超えている。これもやはり誰も歩いてこなかった「けもの道」だが、優れた仕事師たちの業績と人生、そして彼らの壮絶な人生から搾り出た言葉に私は強く惹かれている。日本には偉い人がたくさんいたと改めて思う。こういった仕事師たちの遺した言葉もこの本の中で紹介しているが、それが若い読者の心を打つとすればこんな嬉しいことはない。
 最後に、IT系ならぬ、こういう根性系の先輩のアドバイスにも耳を傾ける若い人がいるのであれば、書いた意味があるし、幸いに思う。

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