「イスラムを巡る国際情勢」(酒井啓子)--多摩大リレー講座第3回

多摩大学リレー講座の第3回は、東京外国語大学酒井啓子教授である。酒井先生は中東の専門家で、イラク問題ではテレビや新聞などマスコミに頻繁に登場する方だ。今回も熱心な社会人250名ほどと400名の1年生が聴いた。以下簡単なまとめ。

+中東(北アフリカからイラン)やイスラムが世界の大きな問題になってきたのは20世紀に入ってからだ。第一次大戦あたりからなので最近のことだ。
+国際テロリストの跋扈はグローバル化の産物。彼らはインターネット、衛星放送などが情報源でここ10年くらいの情報のグローバル化と連動している。
+現在起こっている中東の紛争の根本原因は、パレスチナ問題とイラク戦争に伴う産油国周辺の問題だ。
イラクでのアメリカ兵の死者は、戦争中よりも戦争終了後の方が多い。イラクの民間人の死者は2006年以降に多い。
+2003年のイラク戦争から5年経ったが、電気や水道の不足は続いておりよくならない。(気温60度の世界)
+アメリカはイラクの石油が目当てて戦争したという説は誤り。戦争前はもっとも安い価格で手に入れていた。(日本は最高額)
+治安の悪化で国民の2割が難民。1割は国外難民、1割は国内難民。
+こういった現状で復興はしていない。これはなぜか?
+南部のシーア派と北部のスンニー派の対立が原因ではない。教義はあまり違わない。
+アメリカはインフラを立て直す気がなくイラクをいじめているという陰謀論イラクとその周辺国にも浸透しつつある。
イラクの石油生産量は横ばい、しかし価格高騰により収入は大幅増加。しかしインフラは整わない。アメリカはこの金でイラクに駐留しているのではないか、という疑惑があり払拭できない。このことで反アメリカの動きがイスラム圏に広がってしまった。
+復興が遅れているのは選挙で選ばれたイスラム政府(成立3年)が機能していないからだ。
+アメリカ軍のイラク駐留の理由は、撤退によって起こる混乱を危惧しているからだ。
イラクイスラム最高評議会の中心メンバーによって構成される政府は、1982年からイラン(ペルシャ民族・ペルシャ語)に逃げていて、イラン政府に支援されてきた人達。彼らとずっとイラク(アラブ民族・アラビア語)にいた国内派のサドル派との確執がある。アメリカが退くとイランの傀儡国になるのではないかという心配がある。イラクから出て行きたいがそれが心配というのがアメリカのジレンマである。
イラク人は、アメリカには出て行って欲しいが、やるべきことをやってからにして欲しいという気持ちもある。
ジダンダルビッシュイスラム教徒(父親イスラム教徒ならそうなる)。
+中東におけるイスラム教徒としての自覚の高まりは、グローバリズムが影響している。