「人間を考える」シリーズーー斎藤幸平。藤原辰史。角幡唯介。奥野克己。

NHKカルチャーラジオ「人間を考える」シリーズを4本連続して聴きました。37歳、46歳2人、60歳という若い世代の興味深い講演でした。

  • 斎藤幸平(大阪市大。1987年生)『人新世の資本論』。コロナ。資本主義の限界。気候変動、気候崩壊、気候危機。人類の責任。2100年に2度以内上昇。人新世。新しい地層。格差と環境。グレートリセット。GX。ESG。SDGs。アヘン。CO2、2020年▲6%。石油からレアメタルへ。収奪の構造。便利な生活の代償。帝国的生活様式。グローバル・サウス。システムの変更。ケアの低評価。エッセンシャルワーカー。テレワーカーはブルシットジョブ。防災器具。食糧。高税率と分配による消費。豊かさの再定義。再生産力重視。CO2はきっかけ。今の幸せとは何か。代替のない地球。さもないと絶滅。
  • 角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家。1976年生)。地図を持たない登山。
  • 奥野克己(立教大。文化人類学者。1962年)。マレーシアのプナンの研究から。
  • 藤原辰史(京大人文研。1976年生)。『分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考』(青土社

話題の『人新世の資本論』は読んでいるが、『分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考』はまだだ。読んでみよう。

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今日のヒント。サントリーウェルネス「美感游創」。伊藤裕(慶應義塾大学医学部教授)。「幸福寿命」。

  • 人生の本当の目的は、幸せになることではないでしょうか。「生涯、幸せを感じて生きていけることが大事」というメッセージを込めて、僕は幸福寿命を提唱しています。
  • 一人では幸せになれない。人間は、そういうふうに発達してきた生き物です。だから、幸せのためにはつながりが欠かせません」
  • 「幸せ」は、「過去」よりこれからの「未来」が きっと良くなっていくだろうと感じる 今にあります。(『幸福寿命 ホルモンと腸内細菌が導く100年人生』)

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「名言との対話」。1月6日。藤原与一「方言の山野海陸が私を招きます」

藤原 与一(ふじわら よいち、1909年1月6日 - 2007年10月23日[1])は、日本の言語学者、方言学者。享年98。

1937年 広島文理科大学文学科卒業。1937年 広島文理科大学助手。1945年 広島文理科大助教授。1950年 広島文理科大学文学博士。 テーマは「尊敬表現法についての研究」。1951年 中国文化賞。1953年 広島大学文学部助教授。1963年 広島大学文学部教授。1972年 広島大学を定年退官。1972年 広島方言研究所を開設。

広島文理科大学において東条操に出会ったことにより方言学に進む。国の方言調査を行った。広島大学教授定年退官後は広島方言研究所を設立し、多数の著書を出版した。国語教育に関する著作も多い。今治市大三島図書館には藤原与一の寄贈図書を中心とした「与一文庫」がある。また、藤原与一の方言研究の資料と蔵書は広島大学図書館へ寄贈された

著書は1943年から2004年まで、60冊ほど。共編著は1968年から2001年まで、12冊。膨大だ。『昭和日本語の方言』全8巻 三弥井書店 1973-2001という仕事もある。28年間。以下、並べてみたい。壮観だ。

『伊豫大三島北部方言集』中央公論社1943。『日本語:共榮圏標準口語法』目黒書店 。『日本語方言文法の研究』岩波書店。『私たちの国語』中学生全集 筑摩書房。『ことばの歴史』福村書店。『これからの国語』角川新書。『毎日の国語教育』福村書店。『日本人の造語法:地方語・民間語』明治書院。『方言学』三省堂。『方言研究法』東京堂出版。『国語教育の技術と精神』新光閣書店。『ことばの生活のために 表現と理解への手引き』 講談社現代新書。『日本語方言文法の世界』塙選書。『ゆたかな言語生活のために 方言から見た国語』 講談社現代新書。『世界コトバの旅』朝日新聞社。『理の国語教育と情の国語教育』新光閣書店。『方言の山野:ことばのさとをたずねて』文化評論出版。『昭和日本語の方言』全8巻 三弥井書店。『私の国語教育学』新光閣書店。『方言生活指導論:方言・共通語・標準語』三省堂。『瀬戸内海域方言の方言地理学的研究』東京大学出版会。『方言学の方法』大修館書店。『伊予大三島北部方言集』柳田国男国書刊行会全国方言資料集成。『幼児の言語表現能力の発達「わが子のことば」を見つめよう』文化評論出版。『方言敬語法の研究』昭和日本語方言の総合的研究 第1巻 春陽堂 。『日本語をあるく・方言風土記』冬樹社。『私たちと日本語』岩波ジュニア新書。『方言文末詞<文末助詞>の研究』春陽堂書店。『方言学原論』三省堂。『民間造語法の研究』武蔵野書院。『子どもの民俗:一時代まえの生活とことば』和泉書院。『言語研究:方法と方法論』三弥井書店。『瀬戸内海方言辞典:伊予大三島肥海方言を中心に』東京堂出版。『方言学の原理』三省堂。『文末詞の言語学三弥井書店。『中国四国近畿九州方言状態の方言地理学的研究』和泉書院。『日本語方言分派論:方言‘区画'(分派)とその系脈』武蔵野書院。『小さな語彙学』三弥井書店。『あいさつことばの世界』武蔵野書院。『方言の山野を行く:私の方言学』三弥井書店。『言語調査としての方言調査』三弥井書店。『言語類型論と文末詞』三弥井書店。『実用音声学』武蔵野書院。『方言学の精神』三省堂。『文法学』武蔵野書院。『愛心愛語抄 言語研究の一小径に立って』三弥井書店。『日本語方言辞書:昭和・平成の生活語』東京堂出版。『「現代語」学』武蔵野書院。『言語哲学への思い』三弥井書店。『日本語方言音の実相』武蔵野書院。『方言学建設』ゆまに書房。『藤原与一方言学論集』ゆまに書房。『日本語方言文法』武蔵野書院。『日本語方言での特異表現法』武蔵野書院。『日本語史と方言』武蔵野書院。『現在学トシテノ方言学』武蔵野書院。『ことばは、愛。:心美しいことばの生活を』東京堂出版。『一方言学徒の歩み』武蔵野書院。『言語生活の学:方言学の発展』武蔵野書院。『日本語における文末詞の存立』三弥井書店

共編著:『文語の文法:古典の新学習』橋本威共著 中央図書 1968。『方言研究叢書』第1-2巻 編修 三弥井書店。広島方言研究所紀要。『瀬戸内海言語図巻』広島方言研究所共著 東京大学出版会。『方言生活語彙』(編修) 三弥井書店。『小学校児童作文能力の発達』編著 文化評論出版。『方言:文表現法』(編修) 三弥井書店。『方言敬語法』(編修) 三弥井書店。『方言地理学』(編修) 三弥井書店。『表現類語辞典』磯貝英夫,室山敏昭共編 東京堂出版。『日本語文末詞の歴史的研究』佐々木峻共編 三弥井書店。『瀬戸内海圏環境言語学』室山敏昭共編 武蔵野書院。『国語教育の創造』岡利道共著 三弥井書店

いくつかの著書に内容をアマゾンで調べた。

・『方言の山野を行く―私の方言学』。「方言の山野海陸が私を招きます。私をがっしりとらえます。そこに息づくことばが、しみこんできます。日本語の生態が見えてきます…。歩く中で自然にかもされてくる方言の学問を大切にしてきた著者が、方言の旅・生態学などを語る」。

・『一方言学徒の歩み』武蔵野書院。「方言研究家の第一人者・藤原与一先生が語る、愛媛県大三島より日本全国方言調査行脚の旅。目からうろこの話満載。四国→中国→近畿→中部→関東→奥羽→九州と、それぞれの地方の臨場感ある言語生活が居ながらにして体験できる」。

藤原の研究の価値を認めた三弥井書店は、国文学、民俗学関連の専門書の刊行する出版社で、藤原与一『昭和日本語の方言』全8巻を刊行した。また創業100年を超えている語学系のは武蔵野書院も多くの本を刊行している。

経歴と著書を並べてみたが、学者として一筋の道をまっしぐらに歩き通した尊い生涯であると感じ入った。この継続力とエネルギーには頭が下がる。藤原与一は95歳まで著書を刊行しているのが実に事だ。 

方言は820年頃の『東大寺諷誦文稿』に初めてでてくるから風土と歴史の賜物である。さて、藤原与一の師は、日本の方言研究の土台を築いた25歳年長の東条操(1884年生。東洋大学教授。円地文子の父)、そのまた師は17歳年上の上田萬年(1867年生。東京帝大文科大学学長)である。これは明治政府の標準語政策により失われつつあった「方言」の保存に尽力した学者の系譜である。

標準語の必要性の一つは近代国家の国民意識を涵養することに威力をした。軍隊においては命令が逆の意味にとられることもあり、統一は死活問題だった。「すごい」という意味の言葉も47都道府県で違った方言がある。「べらぼう」は東京、「すっげえ」は神奈川、「めっちゃ」は大阪、「ごっつう」は奈良。「がば」は佐賀だ。テレビなどで最近はやっている言葉には方言由来のものが多いという印象を持っている。

私は仙台で職を得たとき、ズーズー弁を予想したのだが、全くといってよいほど聞かなかった。また大分県中津市の同級生たちとの東京での同窓会でその場にいない友人の発言「うたちい」という方言を話題にしたら大いに盛り上がったことを思い出す。方言は仲間意識を喚起するようだ。

「方言の山野海陸が私を招きます」とは、方言研究の第一人者・藤原与一の研究者人生をあらわす名言だと思う。「山野海陸」という言葉を初めて知った。山野とは、山岳と草原と原野であり、そこに住む住民を指し、海陸とは、海と陸だが、海岸沿いと川沿いという意味にとろう。つまり日本中のあらゆる場所を訪ね歩いた、あるいは歩こうとした決意が心にしみる気宇壮大な言葉である。

方言の記録を残そうとする3代にわたり継続された使命感に導かれたライフワークに挑んだ貴重な生涯だと感銘を受けた。ここでの「ライフ」は上田萬年、東条操、藤原与一の生涯を意味している。彼らの志は著作と教育によって後代にも引き継がれているのだろう。