ミューザ川崎で管弦楽団の演奏会ーーJAL時代の仲間と楽しむ

川崎駅直結のミューザ川崎シンフォニーホールアマデウス・ソサイエティー管弦楽団の演奏会。レベルの高い市民参加のオーケストラ。

このホールはステージを囲む形で座席が設計された「ヴィンヤード形式」の、音響効果の高い設計だった。総座席数は1997。


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指揮は松川智哉。30代の若手指揮者の注目株。確実な技術と情感豊かな表現が特徴とされる。市民交響楽団のメンバーをよく盛り上げた姿が印象的だった。

 

曲目はリヒャルト・シュトラウス(1864-1949年)の交響詩ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」と交響詩死と変容」。壮大でドラマチックな音楽だった。ブラームスマーラーショパンらに影響を与え、ドイツロマン派の終盤から20世紀音楽への橋渡しをした。

死と変容」の完成から60年後に85歳で亡くなるが、その2日前に昏睡状態から目覚めた時に妻に語った。「「死と変容」の中で語ったことは全て正確だった。私は今こそ言うことができる。なぜなら私は今しがた、文字通りそれらを体験してきたのだから」

「ツアラツストラはかく語りき」の冒頭の「夜明け」は、映画「2001年宇宙の旅」で使われた。「英雄の生涯」という作品はシュトラウス自身の人生を描いた自己肯定感の強い作品で、賛否の批評を受けた。

 

同じくロベルト・シューマン(1810-1856年)の交響曲第一番「春」の「春の訪れ」「たそがれ」「楽しい遊び」「たけなわの春」。春の到来を表現した明るい音楽だった。シューマン31歳あたりの作品で、愛を成就させた人生の春を迎えたときに、驚異的な速度で完成させた作品。

「たくさんの幸せな時間を与えてくれた交響曲は、ほぼ完成された。最終的な完成は、これを耳にする時だ。こんなに容易に、このような大規模な作品をごく短時間のうちに私に書かせてくれたよき精神に、どれほど感謝しただろう」。交響曲を書くことは作曲家を志して以来のシューマンの理想だった。最初の演奏は盟友・メンデルスゾーンの指揮で圧倒的な成功をおさめた。シューマンはドイツロマン派の代表的作曲家。

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終了後は、ホールの1階でお茶会。30代初めのJAL客乗時代の仲間の環さん、堀さん夫婦、私たち夫婦での愉快な交流会。

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「名言との対話」10月6日。大原誠「大河ドラマを作るには、時代を読まなくてはならない」

大原誠(おおはら まこと、1937年10月24日 - 2018年10月6日)はNHKディレクターである。享年80。

京都出身。京都大学文学部イタリア文学科卒業後、NHKに入局。入局3年目の24歳。社会部から異動してきた芸能局長から「映画に追いつくような、日本一のドラマを作れ」と命じられた。大河ドラマ花の生涯」に演出助手として参加する。この大河ドラマの第一作「花の生涯」の平均視聴率は、20.2パーセント、「桜田門外の変」の放送回は32.3パーセントを記録し大ヒットとなった。主役の井伊直弼役は(二代目)尾上松緑だ。この作品は子ども頃に家族そろってみていたから、井伊直弼については私は悪い印象を持っていない。

その後、「樅の木は残った」「樅木は残った」「元禄太平記」で演出を担当し、「風と雲と虹と」「草燃える」「徳川家康」八代将軍吉宗」「元禄繚乱」では演出のチーフを務める。

現代ドラマも数多く手がけ、1990年に「不熟につき…」の演出で芸術選奨文部大臣賞を受賞。NHK退職後はフリーの演出家として活動し、「狼女の子守唄」(TBS系)、「疑惑」(テレビ朝日系)、「二十四の瞳」(日本テレビ系)ほかを演出した。

 NH大河ドラマの膨大な作品群は、日本人の歴史観に大きな影響を与えている。私も毎年見続けてきたから、大いに影響を受けているという自覚がある。そういった仕事をしたことは男冥利に尽きるだろう。

大原によれば、徳川家康が主人公の大河は「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し」という家康の我慢強さが、視界ゼロ経済の1983年という時代に合ったそうだ。キーワードは我慢、辛抱 だという読みである。大河ドラマを作るには、時代そのものを読まなくてはならない。

五木寛之優れたマーケッターとして時代と社会をつかみ、優れたカウンセラーとして言葉を紡ぎ人々に伝える。五木寛之はその名人だった。「みんながそれぞれ心の中に持っている無意識の欲望や夢を感じ取り、形にして投げ返すのが作家だと思っていいます」、今を生きる人々の心を慰めるのが自身の役割だから、時代とともにあるから消えることはない。作家としての長寿の秘密はここにある。

若手人気作家の今村翔吾は、戦国武将を描くことが多い。人物を選ぶ場合に、現代のテーマと絡めて選択しているそうだ。松永弾正久秀を描いた『じんかん』は社会の不条理に抗う人びとを描いた告発の作品、『塞翁の盾』は最強の矛と最強の盾の名人の対決を通じて示唆する戦争と平和の行方、『海を破る者』は元寇国難に立ち向かう武将とキーウ(クライナの首都)出身の脇役を登場させた平和への道がテーマだ。つまり、歴史小説は、現代という時代のテーマを描く小説なのだ。

大河ドラマは現代を映し出す鏡でなければ、視聴者の共感を呼ばない。だからプロデューサーやディレクターは日本の社会や経済、世相に対する「読み」と、それを作品に仕上げていく「戦略」が重要となる。

そして作品を仕上げるには、時代考証、衣装考証、音楽、、そして多くの職能を長い期間にわたり、まとめ上げていかなければならない。この「名言との対話」で、山河燃ゆ」以来33作32年にわたって大河ドラマを支えてきた、着物一筋の衣装考証の小泉清子、「天と地と」「平家物語」「花神」の3作を担当した冨田勲、「竜馬がゆく」「樅ノ木は残った」「勝海舟」など多くの時代考証を手がけた稲垣足穂などを知った。

「現代を映し出すことで大河ドラマは共感を呼ぶ」のである。その考えは現代ドラマでも同じだろう。テレビドラマ制作は「時代」との格闘だろう。それはあらゆる分野の表現者のテーマでもある。

日本人の歴史観は「司馬遼太郎大河ドラマ」でできているとも言われる。大原誠はその大河ドラマの黎明期から関与し続けたのだ。2025年のNHk大河は、版元と呼ばれた江戸時代の出版人の「蔦屋重三郎」がテーマとなる。この作品のディレクタは私の友人の甥だそうだ。北斎写楽も登場するだろう。これは楽しみだ。