「健康は人間が自分に贈ることの出来る最高のプレゼントです」(鈴木健二)

幼少の頃から私たちは、「食べ物を粗末にするな」、「食事は残さず食べろ」と言われて育ってきた。もちろん、物を粗末にしないことや感謝の気持ちを持つことは大切なことである。しかし、人生全体における優先順位を間違えてしまうと身を滅ぼすことにつながりかねない。

食事の際に腹八分目になっているにもかかわらず、残してはもったいないと考えて食べてしまうと太ることになる。太っていれば病気がちになる。いくら食べても太らなかった学生時代とは違い、社会人になれば食べた分だけ蓄積されていく。健康と食べ物に対する感謝の気持ち、どちらが現在大切なことだろうか。もしも健康を取るならば、食事は残せ。残して捨てた方が良い。


先日、指揮者の岩城宏之さんが亡くなったが、岩城さんの書いた本に『男のためのやせる本』という名著がある。彼はものすごく太っていたが、一時期とてもやせたことがあった。そのときに書いた痩せるための本である。いわく、太っていると感覚と皮膚との間に肉ができ、外界を正しく認識できないそうである。

なるほどたしかにそういった感じはわかるような気がする。太っていてゆっくりしているおおらかな人は、動きが悪く鈍い人が多い。若い時から太っていると、フットワークとか精神上の健全さなども失われるので精神がたるんでくる。普段から節制しなければいけないのである。

私もビジネスマン時代、社会人になって金が入ってきたので食事代くらいはあまり問題なく出せるようになり、少しずつ太っていった。社員食堂で一緒に定食を受け取って別の席で食べ終えた先輩が、私の食事がほとんど減っていないことに気がついて「どうしたんだ」と声を掛けてきたことがあった。私は一つ目を食べ終え、二つ目の定食を食べ始めたところだったのだ。大学時代の感覚で、定食を二つ一気に食べていたのだ。そのような暴食をしていれば太ってくるのも当然だろう。

そのうち私は丼もののご飯を食べないとかいったダイエット方法を実践し、太るのがとまったことがある。たしかにやせてくると、太っている頃よりも、フットワークが良くなったし、周囲のできごとに関する勘がよくなったり、日常生活でも仕事面でも感度があがってきたような気がする。方法はどうあれ、やせることが健康の近道であることは間違いない。


太っている動物のオスは、動物の本能である生殖の場面でも、生存をかけて自己を主張する度合いが減ってくる。闘争心が失われるのである。だから自分のメスが他のオスに取られても戦って取り返そうとしなくなることが多いそうだ。これは動物としての堕落だろう。社会人は戦っている。太っていては戦えない。