文庫リレー塾:寺島実郎・柯隆・渡部恒雄の鼎談

寺島文庫リレー塾2021「新しい世界認識への視座」第3回。

第1部。

柯隆(カリュウ)(中国)「東京財団主席研究員」

  • 中国経済の2030年までの展望? 「短期は高い成長。中長期には徐々に低下」(強権政治で持続は難しい)
  • 周金平の長期政権をどうみるか? 「世界のリーダーにはなれない」(文化力がない。自由がないから)
  • バイデン時代の米中関係はどうなる? 「ネオチャイナリスク。グローバルルールに従わないというリスクの登場で主要国と対立)

渡部恒雄(米国)「笹川平和財団上席研究員」

  • バイデン政権の評価は? 「経済はよくなった。中間層のための外交政策。インド・太平洋が中心に」
  • 米中関係はどうなる? 「米国は中国には強硬な関与政策。ライバルとしての対立・競争。対立ではない」
  • 日米関係はどうなる? 「日米首脳会談で重い宿題。台湾有事にコミット。豪印も含めバランスをとるべき」

第2部。

寺島実郎

「埋没する日本」:2000年14%、2020年6%、2030年4%。ピークは1994年の約18%。2028年に中国はアメリカを抜くという予想。アメリカと同盟国の衰亡。2000年:米国30.3%、日本14.4%、英国4.9%、合計49.6%。2020年:米国24.8%、日本6.0%、英国3.2%、計33.9%。2020年は米日英で世界の半分、現在は3分の1。バイデンは正統性のある世界を目指していく。

柯隆(カリュウ

  • 中国は格差と貧困という内なるリスクにどう対処するか? 「格差は是正されない。発展するしか解決策はない」(所得が把握できない。固定資産税・相続税はない)
  • 華僑・華人が失望という外なるリスクがあるののではないか? 「1980年代は協力したが、香港問題もあり最近は不協力になっている)

渡部恒雄

  • 財政出動による好況。1年1兆ドルの赤字になる? 「今は自転車操業中。インフラ投資の2兆ドルも。日欧も不安あり」
  • アメリカの分断はどうなる?(ホワイトナショナリズ。72%はトランプに投票)  「トランプの復活もありうる」
  • アメリカは「日本は歴史的にアメリカべったりの国ではない」、中国は「日本を米中のバランサーにしたい」。日本は米中から大事にされる。チャンスでもある」

寺島実郎の総括

  • 尖閣問題:首脳会議では領有権にアメリカがあいまい、ここに踏み込むべきだった。ジャパンガンドラー、ジャパノロジスト、日米関係マフィアという知日派は、親日派とは限らない。台湾問題では米中戦争に巻き込まれる可能性あり。日米の一体化だけではあぶない。
  • 正統性のある秩序をめざす時代だ。日本は「戦略構想力」「ルール形成力」(環境・EV自動車、、)が必要。欧州がルール形成のエンジン。敬愛され、正統性のある世界秩序を。

以下、図メモ。

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午前:ヨガ1時間。散髪

午後:鈴木:富士箱根伊豆国際学会の理念等についてのアドバイス。福島:NPO法人知的生産の技術研究会の今後についての相談。ZOOMと電話。

夜:深呼吸学部の講座をZOOMで聞きながら仕事。

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「名言との対話」6月5日。津村節子「女の人生はカンと決断かしら」

津村 節子(つむら せつこ、1928年(昭和3年)6月5日 - )は、日本の小説家。

福井市生まれ。1965年「玩具」で芥川賞、1990年『流星雨』で女流文学賞、1998年『智恵子飛ぶ』で芸術選奨文部大臣賞、2003年「長年にわたる作家としての業績」で恩賜賞・日本芸術院賞受賞。同年日本芸術院会員となる。2011年「異郷」で川端康成文学賞受賞]。ふるさと五部作に『炎の舞い』、『遅咲きの梅』、『白百合の崖』、『花がたみ』、『絹扇』がある。そうそうたる作品を書き続けてる作家である。

エッセイ集『人生のぬくもり』(河出書房新社)を読んだ。

「週刊人間国宝」の巻末エッセイ24回分をまとめた本『桜遍路』を新書版にしたものだ。「本書は2008年6月、河出書房新社より単行本『桜遍路』として刊行され、新書化にあたり改題の上、追記・加筆・訂正をしました」と記してある。文庫本、新書本、電子本などへの展開について、私も参考になった。

津村節子は父は織物業、母は呉服屋の娘という出自だ。備前焼の藤原啓、有田焼の今泉今右衛門。神成雫。加藤藤九郎。瀬戸内寂聴などの作家のことなどが書かれている。そして食器のことなどを記した女としての目線。故郷の福井にまつわる話題では、「明星」の歌人、山川登美子を書いた『白百合の崖』が目を引いた。鉄幹は白百合(登美子)、白萩(晶子)、白藤(中浜糸子)、白桃(林のぶ子)、白梅(増田雅子)、白菫(玉野花子)とみやび名をつけていたとは初めて知った。

小説家の夫・吉村昭の実像についての観察は興味深い。「飲む飲む飲む」人で、雑誌「酒」 (佐々木久子編集長)の文壇酒徒番付で東の横綱の地位にあった。学習院文芸部時代のデートは上野の帝室博物館ばかり。徹底的に歩く人。「事実そのものがドラマだ」。吉村は読書をしない。資料棚、書棚には、県史、市史、町史、地理、歴史、大日本古文書、民俗、風俗、医学、災害と犯罪の歴史、街道、江戸武家事典、維新史叢書、明治大正昭和の新聞収録、、。二人の師匠は丹羽文雄。「私にとって最も気持ちが安まるのは書斎」。克明な遺書「延命治療は望まない。家族葬。死顔は見せぬよう、、」。

津村節子の小説家としての言葉。長編『炎の舞い』(新潮社)を書くために、青森県津軽焼きから沖縄の壺屋焼きまで50余の窯をめぐっている。「2001年に右眼の視力を著しく失う」。「出版を待つときの気持は、自分のやきものが窯から出る窯出しの日と同じであった。物を生み出す苦心と喜びは、何によらず共通したものであると知ったのである」

「同人雑誌作家で終わる人とプロになる人はどこが違うのか……。ひとつにはテーマの選び方でしょう。この人は何が書きたいのか、書けるのか。その書きたいことをどういう表現で書くのか。テーマを選ぶというのも才能のうちです」(インタビューに答えて)。

吉村昭から結婚を申し込まれて、「結婚したら小説が書けなくなる」と渋ったが、吉村からは小説家は何事も体験が必要だと言いくるめられた。結婚後も本当に書くとは思っていなかったらしいと書いているのも面白い。

2013年に荒川区日暮里図書館の「吉村昭コーナー」を訪ねたことがある。2017年にはゆいの森あらかわ吉村昭記念文学館(名誉館長は津村節子)が開館しているとも聞く。

津村節節子のエッセイを読んでいると、女の「カンと決断」は、正しかったようだと思った。吉村昭の作品は『三陸海岸津波』関東大震災』『海も暮れきる』『冬の鷹』『あかつきの旅人』『ポーツマスの旗』などずいぶんと読んできた。エッセイにあった歌を読んで、「明星」の歌人、山川登美子を書いた『白百合の崖』はぜひ読んでみたいと思った。