ヒルティ「幸福論」(岩波文庫)三部作を読了

ヒルティの「幸福論」は学生時代に手にしたことがある。
改めて読み直して、その内容の豊かさに感銘を受けた。
「幸福論」では出色の高峰である。

ヒルティ(1833−1909年)は、スイス人で、医師の父と陸軍将校の娘の母との間に生まれた。6歳で小学校、11歳で州立のギムナジウムに入り宗教教育を受けた。18歳でドイツの大学に入り法律学を中心に哲学や歴史を学ぶ。翌年ハイデルベルグ大学に移り、22歳でドクターを称号を得て卒業。地元のクール市に帰り弁護士を開業し、正義感にあふれた有能な弁護士として18年間を過ごす。そしてスイス陸軍の裁判長、陸軍司法の指導者となっていく。

35歳の時に「民主政治の理論家と理想家」という論文で学界に認められて、40歳で首府ベル大学の正教授に招かれる。法律を講じながら、多年の実務経験から得た人間に関する知識と、読書から得た優れた見識を示した。
57歳から代議士に選ばれて、20年近く、死ぬまでその職にとどまった。
66歳、ハーグの国際司法仲介裁判所の初代スイス委員に就任。
73歳、静養先のジュネーブのホテルで心臓麻痺のため絶命する。享年73歳。

学者、政治家、陸軍法務官、歴史家でもあったヒルテぃは、老年に至るまで元気な勉強家だった。多方面な読書と旺盛な著述家であることも特徴である。また公職の傍ら、婦人参政権運動、禁酒運動、婦女売買防止のための闘いなど、公益事業にも貢献している。

世界的に有名な古典となった「幸福論」は、学問体系としてではなく、エッセイ風に自由に書かれている。第一巻の好評を得て、その後の寄稿や講演をもとに第二巻、第三巻を書いている。

ヒルティの「幸福論」は、幸福に向かう実務家らしい仕事の手引きでもあり、そして翻訳者の草間平作の言うように「精神的健康」に向かう書でもある。

第一部。

幸福論 (第1部) (岩波文庫)

幸福論 (第1部) (岩波文庫)

  • 仕事の上手な仕方は、あらゆる技術のなかでももっとも大切な技術である。
  • 働きのよろこびは、自分でよく考え、実際に経験することからしか生まれない。
  • 絶え間ない有益な活動の状態こそが、この地上で許される最上の幸福な状態なのである。
  • 真の仕事ならどんまものであっても必ず、真面目にそれに没頭すれば間もなく興味がわいてくるという性質を持っている。人を幸福にするのは仕事の種類ではなく、創造と成功の喜びである。
  • 我を忘れて自分の仕事に館完全に没頭することのできる働きびとは、最も幸福である。
  • 何よりも肝心なのは、思い切ってやり始めることである。
  • 毎日一定の適当な時間を仕事にささげることである。
  • 一番よいやり方は、比較的せまい範囲を完全に仕上げて、そのほかの広い範囲については本質的な要点だけに力を注ぐことである。
  • 仕事を変えることによって、必要な休息と同じくらいに元気が回復するものだ。
  • 繰り返すこと。輪郭がつかえめ、細部が視、理解が精密になっていく。
  • 教育の秘訣は、仕事(勉強)に対する愛好心と熟練を得させ、一方で適当な時期に偉大な事柄に生涯をささげる決意をいだかせるように仕向けることだ。
  • 教師の職業には、その最下級から最上級にいたるまで、すべて充分個性の発達した、いききとした人格が最も必要である。
  • 人格は、自己教育と模範によって養われるのであって、自ら獲得すべきもので、教え伝えるものではない。
  • 自分をも他人をも責めないのが、教養者の、完全に教育された者の、仕方である。
  • 善行に必ず付随する主な報酬は、善は常に善を生み、おうしてその全行者にいつまでも続く利益を与えるのである。
  • 真面目に、一途に、そしてこれと相容れない他の一切の努力を犠牲にして得ようとするならば、何によらず必ずそれを得ることができるものである。
  • 自己教育はすべて、ある重大な人生目的おwひたすら追求し、これに反する一切のものから遠ざかろうとする意志、断固たる決心とともに、始まるものである。
  • 手早く仕上げられた仕事が最も良く、また最も効果的だ。
  • 学問と行動を交互に行うことは、一般に人の精神を最も健康に保つ方法である。
  • きみの学んだもの、きみに托されたものをどこまでも守りなさい。
  • 精神的自由
  • 他人を憎んではならない。他人を崇拝してもいけない。、、彼らを裁いてももならず、裁かせてもならない。
  • その生涯はたとえ辛苦と勤労であっても、なお尊いものであった。これこそが幸福なのである!

第二部。

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

  • 人間の真の誠実は、たとえば礼儀正しさと同じように、小さなことに対するその人の態度にあらわれる。
  • どうしても自分の業績について語らねばならない場合は、平静に、ただ事実に即して語るということは、一つの大切な心得である。
  • ひとはそれぞれ自分の型を完成しなければならない。どこの国の人間か、まるでわからないような人は、不愉快な現象である。
  • 悪と出会ったら、それを赦すよりも忘れる方がはるかにまさっている。
  • 教養とは、形のない生の状態を、それが可能なかぎり最上のものへ進展した状態、あるいは少なくともそれに向かって妨げなく成長しつつある状態に仕上げることをいうのである。
  • 最高のものをめざして努力しなさい。
  • 教育が、若い人々の心に理想を求める精神を植えつけ、なお若干の良い習慣を身につけさせ、あらゆる卑俗なものに対する嫌悪の心を養わせることに成功すれば、それで教育はその最も本質的な任務を果たしたことになる。
  • 人生のほぼ半ばごろに、これまでなしとげた一切のことに対して不満を覚える瞬間がやって来る。
  • 老年は、たいてい突然はじまるものである。
  • 年老いた人たちの生活には3つの考え方がある。一つは生活享楽者、二つ目は晩年を上品な無為のうちに過ごす悠々自適の老人、第三は、より高いいのちへの前進者だ。それは常に鍬から手を離さず、決して後ろをふりかえらず、絶えず眼をこれからと歌うすべきものに注いでいる生活である。
  • 「うしろをふり向くものは、あと戻りしなければならぬ」。老年期の生活目的は実を結ぶことであって、休息することではない。回顧に停滞するのは退化であって、真にすぐれた人たちには決して認められないことである。、、このような老年の特徴は、その円熟である。
  • 若さを失わない精神的方法としてもっとも大切なものは、「常に新しいことを学び」、とにかく何ごとかに興味を持ち、たえず何か前途の計画を立てていることであろう。

第三部。

  • 質の低い幸福へいたる道。財産、名声、仕事、力、健康、権力、高貴な生まれ、、。
  • 導き。必要な、適当な時期に、書物や、個々の言葉(ときには人間にも)出会うことである。
  • 仕事中に倒れるのが最も望ましい。老年には以前にもまして、日々の思いも行いも、現在と未来に向けられていなければならない。
  • あらゆる国々、時代、階級、の差別なく見られる聖徒たちの共通の特徴。謙遜、親愛、恐れないこと、仕事。
  • 教育の目的は3つ。有益な知識を修めること。喜んで仕事をする道を習うこと。釣り合いのよくとれた性格を養うこと。
  • 苦しみに出会ったら、まず感謝するがよい。、、こぼしたりせずに、この道を進み給え。、、これこそ、高きをめざす一番の道である。
  • 過去を回顧することは、ほとんど常に退歩を意味する。
  • 最後の息をひきとるまで精神的に溌剌として活動をつづけ、ついには神の完成された器となって「仕事のさなか」に倒れること、これこそ正常な老年の正しい経過であり、また、およそ人生の最も望ましい終結である。
  • 使徒パウロ「滅びるものではなくて、滅びないものに目を注ぐ人々にとって、肉体はしだいに朽ちても、精神は日ごとに新しくされてゆく」
  • われわれの地上生活の最後の時期は、およそ下り道ではなくて、はるかに高い存在の可能をめざすのぼり道でなければならない。
  • より高きをめざして進め。
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