教育観を少し--人材ではなく人物・偉い人になる・影響力の総量、、。

NPO法人知的生産の技術研究会の機関誌「知研フォーラム」320号。
今回も100ページを超える充実ぶりだ。

この号では私も大いに賑やかしている。

  • 表紙の写真は、新装なった東京駅の写真。オープンの日に撮ったもの。最近、時々採ってくれるようになった。
  • 連載・人物記念館の旅が、横井庄一記念館。
  • 久恒啓一の人物記念館の旅リスト。12月10日現在の訪問記念館をリストアップ。
  • 日中問題の課題と展望について。友人の吉林大学海涛教授を紹介。
  • 新刊本の紹介。「30代からの人生戦略は「図」で考える」の前書き。
  • 八木哲郎さんが「風の偶然」を経た澄明な心境というタイトルで私の母の第三歌集「明日香風」を批評。
  • 裏表紙に拙著「人生戦略」と母の「明日香風」の広告。

さて、この中の「次世代をになう人を育てる教育について、教育を取り巻く現状と課題」というタイトルで会員の都築功さん(都立大森高校副校長)の先日のセミナー録が載っている。
都立高校の最近の様子がわかるいい講演だったが、この中の質疑応答の中で私も何回か意見を述べている。私の教育論の一端が出ているので、そこだけを以下にピックアップしてみる。

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久恒 希望の格差の話ですが、人材という言葉はよくないと思います。企業は人材を求めるというのだけれども、その材というのは、知識とか能力とかそういうものです。企業は業績を上げることに役立つ材料としての人間を求めるわけです。
僕はむしろ人材を「人物」というふうに変えたらいいのではないかと思う。企業にとって価値のある人より、要するに「偉い人」になったらいいのではないか。あの人はなかなかの人物だというとき、「偉い人」だといいますよね。その「偉い」という意味はなにも地位とか成功したかとかいうのではなくて、回りにいい影響を与える人、その影響力が強い人です。人材の場合は知識とか能力を言いますが、人物は1日や2日では育たない。長い時間をかけて人格を熟成させていかねばならない。学校はそういうつもりで人物を育てればいいのではないか。
人物となれば、日本史上の偉人でなくてもいいわけです。周囲や時代にその人の器の中で良い影響を与えること、これを志にするのがいいと思う。すくなくとも若干のプラスを世の中に残して死ねばいいという考え方を示すことだと思います。

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久恒 大事なことは自分を磨き、豊穣な人生を送ることなんです。
そこでまわりにいい影響を与えながら死んでいけばいいのです。

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久恒 人物論、偉人伝がいちばんいい。いろんな人の人生を見せると学生は結構衝撃を受けます。僕は去年まで講義はしゃべっていましたが、今年からユーチューブをつかって見せています。ユーチューブの動画を教育の材料として活用するんです。
今日の授業では正岡子規を中心にやりました。彼の友達の漱石や軍人の秋山真之を一緒に紹介しました。この辺の話は司馬遼太郎の「坂の上の雲」に書かれていますから、NHKのドラマも使いました。
漱石が子規に出した手紙を朗読するオーディオブックがあって、それを聴かせました。アンケートをみたらすごく評判がよかった。
もうひとつ面白かったのは、日経新聞の10月の「私の履歴書」にノーベル化学賞受賞の根岸英一先生の記事の中に「発見のための10箇条」というものが紹介されていて図解がついていました。私はその図解を材料に受講生に修正図を考えてもらい、私の修正図を見せました。すると学生たちが言い出しました。
その感想が愉快でした。
ノーベル賞をとった人でも図解は上手ではないんだな」「先生に図解の描き方を学んだ私たちはノーベル化学賞ととった人よりも図解による伝達力がうまい」「根岸さんの図解はおそらく久恒先生の講義を受講する前のレベルだな」「ノーベル賞をとった人でも図解を描くのが下手なのに驚いた!」「自分で考えた図解が先生が考えた図解に似ていたので考える力がついているのかと嬉しくなった」「ノーベル賞受賞者よりも久恒先生の方が凄いと感じました」
これだけで学生たちに自信がついたんです。面白いですね。

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久恒 尊敬する人を持たないといけないと僕は教えています。漱石の「職業と道楽」という講演録を読むと、大学に職業を説明する科目をつくったらいい、そういうことはできるかできないかわからないがと述べています。そしていろいろな職業の地図を見せるべきだと言っている。漱石は今日のキャリア教育の元祖でもあるんですね。

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久恒 柔道の講道館を創設した嘉納治五郎は、男子一生の仕事として教育に賭けた。東京高等師範の校長を累計で25年間もやっている。ここは校長をつくる学校でしたから、その影響たるや凄いんですね。私の祖父も東京高等師範を出ています。この夏に祖父が校長だった高校を二つ訪ねてみましたが、この嘉納治五郎とつながっていたことがわかりました。私が祖父の血を受け継いでいるということは、嘉納治五郎と縁があるということかもしれません。ということで嘉納治五郎について調べていますが、学ぶべきことが多いですね。

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