「摘録・劉生日記」(岸田劉生)

「摘録・劉生日記」(岸田劉生著・酒井忠康編:岩波文庫)を読了。

摘録劉生日記 (岩波文庫)

摘録劉生日記 (岩波文庫)

38歳で亡くなった岸田劉生の30歳の正月から5年間の毎日の日記である。
この人の全集は全十巻なのだが、二期は全五巻であるから、文章もうまかった画家の代表書籍といってもよい。
自分が描いた挿絵もうまい。友人たちと自宅に作った土俵でよく相撲をとっている。
武者小路実篤木村荘八志賀直哉梅原龍三郎中川一政山本鼎倉田百三、など同時代の友人たちの名前が頻繁に登場する。
娘の麗子ことの記述も多い。代表作品「麗子像」のモデルである。

関東大震災の様子の記述も生々しい。「ああ何たる事かと胸もはりさけるようである。家はもうその時はひどくかしいでしまった。もう鵠沼にもいられないと思ったが、これでは東京も駄目か、、、、。つなみの不安でともかくも海岸から遠いところへ逃れようと、、、」

  • 全力を尽くさなくてはならぬ、芸術の神の前にのみ自らの画を見せることを思え。
  • 他人に何と思われても自分は自分の仕事の世界をのこせばこれ以上の誇りはない。

「これからずっと続けたく思う。一冊、一年中の事がこの日記に記されたら不思議な味の本になる。」と日記を書く事にした決心を語っている。その通りの味のある本に結実している。