「東北「道の駅」の震災対応の実態と新しい役割(報告書)」から

「道の駅」の報告書は131ページあるが、最後の「まとめ」の部分を以下に記す。

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5-2 道の駅の機能のとらえなおし
地域の多機能型連携拠点の役割を果たすためには、「休憩機能」「情報提供機能」「地域連携機能」という3つの主要な機能をどのようにとらえなおし、何を今後強化していけばよいだろうか。今回の調査でみえてきた3つの機能についてまとめる。

1)防災機能について
もともと道の駅は、防災機能を想定していなかった。実際、東北全体で、避難所指定は15.8%、防災に関する行政との協定やマニュアル等の取り決めがあるところは13.1%しかない。行政との役割分担をはっきりさせて、地域の防災計画等に明確に位置付けることで、道の駅が災害時に動きやすいように制度を整備する必要はある。そのような基盤の上に、毛布や食料、水のような備蓄や、水タンクや発電機、簡易トイレのようなライフラインが途絶したときにかならず必要になるものは常備しておきたい。
ただ、そのような備蓄や機材は多く大規模になればなるほど保管場所や維持コストがかかるので、すべてを想定して揃えておくことはできない。販売している食品やレストランの在庫が、いざというときの物資にもなる。通常に営業しつづけることが、防災機能を高めることにもつながるのだ。こういったことも踏まえて、運営する側が管理可能な範囲で準備するのであれば、もう一度、今回の震災で、道の駅が被災者から求められた役割を認識しておく必要がある。それは、支援が被災者・避難者を届く「ラストワンマイル」を道の駅がつなげたという事実である。

2)回復支援機能について
今回の震災は、私たちが想定できない災害が起こりうることをあらためて認識させられた機会でもあった。未然に災害を防ぐ防災という考え方ももちろん必要だが、起こった災害を最小限に抑え、大きな被害から立ち直るという「回復」という営みが重要であると今回の道の駅の活躍は教えてくれる。この回復支援に含まれるのは、「人の回復支援」「日常の回復支援」「移動支援」である。

人の回復支援
今回、道の駅が避難者に行った支援は、食料や飲料の提供といった「食べる(飲む)」を支援すること、重要だったトイレの提供とともにお風呂の提供、生理用品などの提供など「排泄する(衛生を保つ)」を支援すること、休んだり、寝たりする場所を提供するような「休む(寝る)」を支援すること、この「食べる(飲む)」、「排泄する(衛生を保つ)」、「休む(寝る)」という人間の行為は、災害時様々なストレスで疲れ切った体や心に、体力や気力を回復し、次の行動に移るために必要な営みである。これは今までの道の駅の機能でいえば、休憩機能ということになるが、その機能が、災害時には、回復支援機能へと転換する。
災害時には、この3つの営みに不可欠な物資や設備が入手・利用できなくなる。水、食料、食材を調理するための道具、食器、トイレ、生活雑貨、空調設備がある場所、布団など。重要なことは物資や設備があっても、それが最終的に利用できる形で被災者に提供できないと意味がないということである。被災者にとって、「米という農産物」がいくらあっても、炊くための水、炊飯器、炊飯器を動かす電気がないと「米という食料」は手に入らないのである。このような物資や設備と、被災者との「ラストワンマイル」をつなげることが道の駅の役割だと考える。言いかえれば、被災者、利用者の立場に立って、必要な支援を考え、与えられたものやネットワークのなかで実現する役割である。特に電気や水道などのインフラが途絶したときに、3つの営みを実現できるように準備をしておく必要がある。

「日常」の回復支援
「食べる(飲む)」、「排泄する(衛生を保つ)」、「休む(寝る)」という災害時に最低限確保されるべき営みを回復できれば、次は地域の「日常」を回復するための支援が必要になる。ここでいう「日常」とは普段どおり、生産が行われ、消費し、地域経済が動いている状態を指す。生産から卸、小売といった流通の再構築支援ともいえる。ただ、そこには、取引関係を構築するだけではなく、被害で生産をあきらめた生産者を励ますといった動機づけのような支援も含まれるし、物資を無料で提供せず、あえて正価販売をすることで非常時の消費者のモラルを保つような試みも含まれる。そして、多くの道の駅が、困難な状況のなか、営業を続けて、商品を仕入れ提供するという「いつもの商売」を続けることで、被災者を励まし続けたことを忘れてはならないだろう。このような彼らの努力は、「商売」という言葉だけには還元できない。被災前の何気ない地域の「日常」としか呼べないものを回復しようとするプロセスといえないだろうか。
災害時に、流通を維持、または再構築して「日常」を取り戻すためには、平時からの生産者、卸売、行政、市民団体等などの多様なネットワークをどれだけ良好に築くことができるかにかかっている。平時での機能でいえば、地域連携機能こそが、今回のような想定外の災害に直面し、今後、強化されるだろう防災機能では対応しきれない部分を補完する力となり、本当の意味の道の駅における災害に対する「強さ」を決める機能となるだろう。

移動支援
道路に隣接している道の駅だからこそ、求められる支援である。被災者が体力や気力を回復すれば、道の駅から移動する必要がある。また、流通を維持・再構築し、「日常」の回復するためには輸送や移動の手段がないと難しい。特に今回、ガソリンが不足したことで、人の移動、モノの輸送ができなかったことは大きな課題となった。今後は、道路というインフラに隣接する施設として、移動を支援するための機能を持つ必要がある。また、燃料の種類をガソリンだけでなく、灯油、軽油、ガス、電気といったようにミックスさせることで、移動だけでなく、3つの営みの支援にも活用できるようにすべきである。また、情報を提供することも移動支援にとっては重要である。災害時も道路の情報や目的地の情報を提供できるような体制を整備することで、より移動を速やかに支援することができる。この移動支援機能を強化することは、今までの情報提供機能の強化と、道路隣接施設としての強み
を活かす試みということになるだろう。

3)地域連携機能について
生産者・業者との連携
先にも述べたとおり、災害に強い道の駅になるということは、地域連携機能を強化することと同意である。生産者や卸売業者との平時からの親密な関係は、非常時の融通関係につながる。ただの取引関係として、出入り業者やテナントとみるのではなく、道の駅にとって貴重なソーシャルキャピタルとしてとらえ、良好な関係を維持することを意識しなくてならない。

行政との連携
定量調査では、もっとも多かった連携は「地元行政からの要請の対応」であり、その自己評価も「ある程度うまく対応できた」という結果がでている。ただ、現地調査でインタビューをすると、「行政は何もしてくれなかった」という意見をよく聞いた。要請には対応したが、行政が道の駅を支援したり、一緒に行動したりということはあまりなかったという印象だ。これは防災機能ところでも述べたが、そもそも災害時に道の駅と連携する制度がなかったということが最も大きな理由だといえる。今後は、協定やマニュアルなどの整備を通じて、より災害対応でも連携ができるようにしなければならない。また、災害対応という点では、地元行政だけでなく、国との連携は不可欠になるだろう。

道の駅どうしの連携
今回の震災は、東北の道の駅が具体的に連携するきっかけとなった。定量調査でも、「他の道の駅との助け合い」が2番目に多い連携であった。被災地支援のためのイベント、ボランティア派遣等、様々なレベルでの連携が行われた。また、平時につくっていたネットワーク組織が初めて、有事を経験し、具体的に動いたことにより、さらなる連携が進むことになるだろう。さらには、東北以外からの地域からの支援もあり、道の駅どうしの連携は全国に広がりつつある。他県からその地域を支援する場合、地元の自治体ではなく、道の駅に問い合わせがきたという事例を聞くと、民間レベルでの地域連携を代表する施設として認識されはじめていると思える。
おもしろいのは、利用者が、道の駅で提供されるものは、その地域固有のもの(特産品など、ここでしか手には入らないというユニークさ)ということに魅力を感じる一方で、日本全国どこに行っても「道の駅なら安心、なんとかなる」という統合的なイメージに魅力を持ちはじめているということである。多様でお互いに自律しながら、まとまって連携しているというのは、ネットワークとしては理想的である。日本で初めて地域連携を象徴するナショナルブランドが誕生したといっても大げさではないと考える。このブランドを東北だけでなく、全国の道の駅が共有し、育てていく姿勢が求められている。

5-3 地域連携を促すマネジメント
最後に、道の駅の機能をとらえなおし、平時と災害時に対応できる地域の多機能型連携拠点へ進化していくために必要なマネジメントについて簡単にまとめておく。
今後、防災や回復支援の機能を強化するためには、その基盤となる地域連携機能の強化がポイントとなり、この地域連携を促すマネジメントが必要となる。つまり、休憩施設や小売店、観光施設の運営という側面だけではなく、より地域活性化や産業振興という側面を強く意識して、ネットワークを形成していく力が必要になる。今回の調査では、その力を左右するのは、スタッフ、特に駅長のキャリアによるところが大きいという傾向がみられた。
一方で、多くの道の駅の運営組織が、株式会社の形態をとっているものの、多くが公社など行政の資本が入っている会社が多く、場合によっては、経営層に首長や行政職員が名を連ねており、決して現場の運営者が、自由に意思決定できるような制度設計になっているわけではない。多くの駅長が、道の駅の公的役割を感じながらも、経営的には、企業としての厳しさを感じながら運営しているという印象を持った。
今回の調査では、平時の道の駅のマネジメントに関してまでの提言をするスペースはないが、今後の課題として、人材育成など人が最大限の資源となる道の駅において、地域連携を促すネットワーク形成ができる人材を確保・教育することが重要なテーマになっていくと考える。

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以下、担当の松本先生からの御礼のメールから抜粋。

多摩大学としても、大変貴重な経験をさせていただきました。
今回の調査が、東北の道の駅のこれから、東北復興のこれからに少しでも寄与できれば本望でございます。
まだすべて終わったわけではありませんが、報告書完成報告会終了ということで、ひとつの区切りとなりました。
1年近くのわたるプロジェクトでしたが、東北みち会議さんの分厚いフォローがあってこそ、可能なプロジェクトでした。
安藤さんをはじめとする、スタッフの方々のご支援に心から感謝いたします。
また、多摩大学でも、海のものとも、山のものともわからないものに、大学として取り組むことを了承いただき最後まで支援いただきました。ありがとうございました。
一緒に調査、報告書執筆、報告会対応いただいた教員・職員、に感謝いたします。また、裏方として、事務処理等に対応いただいた職員にも感謝いたします。
今回の取り組みを、今年度だけに終わらせず、今後とも、進展させていきたいと考えています。

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