俳句の金子兜太の二つの著書を読んでみた。
現代俳句の最高峰のこの人は1919年生まれとあるから、今年93歳。途中戦争にゆき、日銀で定年まで仕事をしながら俳句に打ち込み、定年を迎えてからが本当の人生となる。
55歳の定年以降の年月は、もうすぐ40年に及ぶことになる。
60歳で朝日カルチャーセンターの講師を師の加藤楸邨から譲られ、それから俳句生活が始まる。64歳、現代俳句協会会長。68歳、朝日俳壇選者。69歳、紫綬褒章。89歳、文化功労者。91歳、毎日芸術賞特別賞、菊池寛賞。
- 作者: 金子兜太
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2012/06/02
- メディア: 単行本
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金子兜太のテーマは、自由にある。そして人間の実存とは、流れること、流動、しかしその都度、立場を明確にしていくこだ。
そういう価値からは、孔子ではなく、老子。芭蕉ではなく、一茶に惹かれる。そして種田山頭火、井上ひさし、小沢昭一、山田洋次などがその系譜に連なっている。
同じ傾向の小林一茶を描きながら自分を語ったのが「荒凡夫 一茶」(白水社)だ。
一茶は30代くらいから毎日ずっと日録をつけている。記録魔、メモ魔であり、生涯で2万の俳句を詠んでいる。因みに芭蕉は二千、三千。
一茶は、家業を持っている遊俳、懸賞俳句の雑俳ではなく、俳句そのものを商売にする業俳として世間にまみれて生きていく。
50歳、故郷に帰り、52歳で28歳の妻を娶る。58歳で中風、59歳、治癒。
60歳のときに、如来様に向けて「自分は荒凡夫になりたい」という。煩悩具足・五欲兼備の愚のままに生きていくということだ。
なまなましく生き、酒を飲み酔っぱらうように句を作り続ける。そういう「かるみ」が一茶にはある。
人間の暮らしが中心で、景色はそれに従属しべきものという考えから、季語を重視しない。
「俳句を楽しむ人生」(中経の文庫)は、金子兜太の自伝的な本だ。
- 作者: 金子兜太
- 出版社/メーカー: 中経出版
- 発売日: 2011/01/27
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一茶
椋鳥と人に呼る寒哉
これがまあつひの栖か五尺雪
露の世は露の世ながらさりながら
ことしから丸儲けぞよ娑婆遊び
蚤どもがさぞ夜永だろ淋しかろ
花の影寝まじ未来が恐ろしき
やれ打な蠅が手をする足をする
犬どもが蛍まぶれに寝たりけり
芭蕉翁の脛をかじって夕涼
兜太
白梅や老子無心の旅に住む
酒止めようかどの本能と遊ぼうか
髭伸びて天辺薄き自然かな
曼珠沙華どれも腹出し秩父の子
長寿の母うんこのように我を産みぬ
男根は落ち鮎のごと垂れにけり
自分を磨き上げていく精進の芭蕉と、放埓な一茶。どちらが好きかは、性格の違いによるのだろう。