「積ん読」の技術と効用

「名言との対話」を書くためには、毎日のように本を読む必要がある。風呂、トイレ、ソファーで休憩中などに、少しづつ読んでおく。そして気になったところ、大事な言葉などに線を引いておく。これは準備体操のようなものだ。

ここ数日、8月後半に読むべき本をパラパラと読んでいる。書く当日までにやっておくと、折に触れて自然に考えが熟成されていくということがある。

また、9月分の人選と本の注文が終わり、本が届き始めたので、取り出して書棚に並べていく。常時、20冊以上を手もとに準備していることになる。

こうした本を読んでいくのは義務感というより、希望がわく感覚の方が強いような気がする。これらの本を、その時々の気分に応じて選び手にする。そして、気になったところから、あるいはあてずっぽうに開いたページから読んでいく。このあたりは自由にしている。今日、風呂に入る時には、軽い読みものがいいと思い、9月1日が誕生日の石井ふく子の自伝的エッセイを読んでしまった。

常に読むべき本を置いていないと読書の習慣は続かない。興味のある本、話題の本を適度な量を確保しておくには意外と難しい。「積ん読」のすすめが効果をあげないのは、どういう本をそろえておくかという点に壁があるのだ。その点、ここ5、6年ほど私がやっているように、毎日ブログに書くために「誕生日」や「命日」というスジでランダムに本を積みあげておくのは、とてもいい方法だと思う。

トイレではここしばらくは母が書いた『万葉歌の世界』を手にして読み進めている。「遣新羅使人の歌」を読み終わったところだ。母のフィールドワークの姿とその感想、感慨、想像などがわかり、母の旅に付き添っている感がある。

6月に亡くなった母の遺歌集、追悼文集を企画している。「学と芸」という考え方がある。短歌の世界だと学は万葉集などの研究で、芸は短歌の実作となる。母の短歌論については以前に書いたことがある。次に、「学」である、母の書いた万葉集研究、そして伊勢物語研究などをきちんと読み、それを文集に載せよう考えている。「学と芸」の両面が揃って初めて全体像がみえてくるだろうと期待している。それが書ければ、久恒啓子論になるはずだ。

弟と妹は、毎日遺骨にお参りをしながら母を偲んでいるようだ。私は書斎に小さな遺影を置いて、折に触れて母の著作を深く読み込むことにしている。 それが私らしい供養のスタイルだろう。その成果を時々、このブログに書くことにしよう。

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「名言との対話」降旗康男「失敗したとか負けた人とか、そういった人たちを描くのが映画だ」

降旗 康男(ふるはた やすお、1934年8月19日 - 2019年5月20日)は、日本の映画監督。

祖父、父ともに代議士である長野県の名門に生まれる。松本深志高校から東大文学部仏文科卒業。1957年東映に入社するが、労働争議に熱中。共産党支持者だった。1966年東映京都所長の岡田茂が「非行少女ヨーコ」で監督に起用する。

時代劇はやりたくない、成功者の映画は撮りたくないと主張し、一時干されてテレビの演出も多数行った。

高倉健とは1966年の「地獄の掟に明日はない」で出会う。1974年にフリーとなり山口百恵主演「赤いシリーズ」などテレビ映画を多数担当した。1978年、「冬の華」で東映ヤクザ映画に復帰し、高倉健とのコンビを続けて20本撮っている。1999年に高倉健主演「鉄道員」で、日本アカデミー賞監督賞・脚本賞を受賞する。

高倉健とのコンビで「新網走番外地」シリーズや「冬の華」「駅  STATION」「鉄道員(ぽっぽや)」「あ・うん」などを監督し、ヒットさせる。

高倉健を評して「2度、同じ事は出来ない俳優。面倒くさい俳優だが、面白い俳優だと思う」とインタビューで語っている。若い頃の高倉健仁侠映画は同じことの繰り返しだったことに同情している。「脚本のどこか1行に、背筋がぞくっとするようなものがあれば、僕はその1行を頼りに出演を引き受ける」と高倉健は語っていたそうだ。単なる美形のスターから生まれ変わった。不器用だと自覚して、考え抜いて演技をした。「どんな役の人物の中に高倉健がいる」。

2002年「ホタル」で芸術選奨。2013年、「あなたへ」で日本アカデミー賞優秀監督賞。80歳を越えてからもメガホンをとった異色の映画監督である。

インタビュー映像をみた。「失敗したとか負けた人とか、そういった人たちを描くのが映画だと思っている。映画は、自ら状況や境遇の不運を引き受けてしまう“不幸な人”、自ら幸せや幸運を捨てて行く人たちを描くもの、そこでの人間の人間らしさ、悲しさや美しさを描くのが映画じゃないかと思って、これまで撮り続けてきた」

『永遠のゼロ』で主役を演じた岡田准一を人間に内在する“陰”を演じきれる、いまの日本映画界では数少ない主演俳優だと思って起用している。

シャイでク口数は少なかったといわれるように、インタビュー映像では、含羞をみせながら、トツトツとゆっくり喋るのが印象的だ。静かな人である。

降旗康男監督には48作品がある。失敗、敗北、不運、不幸、陰、悲しさ、その人たちの美しさを描いたこの監督の映画は「網走番外地」くらいしか見ていない。これを機会に「鉄道員(ぽっぽや)」、「ほたる」「あなたへ」などをみたい。